中野剛志『TPP亡国論』




  



■ 中野剛志『TPP亡国論』(集英社新書)を読了。






《感想文:「震災復興」、「日本と世界、そしてグローバル企業の進むべき道」》




非常に刺激的な一冊。おそらく、政府関係者も含めて大半の人が、TPPをよく分かっていないのに賛成したり反対していると思われるので、TPPへの参加賛成派にも反対派にも広く読まれたい。



TPPの一番のポイントは次の図式を理解すること。


(1)アメリカと日本の利害は一致しない



(2)グローバル企業と日本の利害は一致しない


(1)はすぐに理解できる。「農業と金融」で経済の再建を計ろうとしているアメリカと、とにかく「デフレ不況」を脱却せねばならない日本とでは利害が一致しない。デフレ下で貿易の自由化をすれば、安い商品、安い労働力が国内にどんどん入ってきて、ますます物価は下落する。



問題は(2)。トヨタパナソニックといったグローバル企業は日本を代表する企業であり、グローバル企業の躍進=国益と思っていたが、そうとは言えない傾向が強まってきている。






日本にとって、TPPに参加すること自体のメリットはほとんどなく、仮想敵はTPPに参加しない韓国らしい。特に欧州市場における韓国企業とのシェアの奪い合いが争点。韓米FTA、韓欧FTAを取り付けた韓国に対して、日米FTAも日欧FTAも交渉できずにいる日本が、まずTPPで実質的な日米FTAを結び、その流れでつぎに日欧FTAを実現させたいという(日欧FTAを実現できるかは不明)。



ただ、この場合も、グローバル化した世界においては、国際競争力には「関税」ではなく「通貨」の影響の方が大きいので、グローバル企業がTPPへの参加を促す本当の狙いとは言えない。



グローバル企業がTPPへの参加を促す本当の狙いとは何か?



TPP参加国の中には、日本と同じような利害や国内事情を有する国はなく、連携できそうな相手がまったく見当たらないのです。


まず、アメリカ以外の参加国は、日本とは違い、外需依存度が極めて高い「小国」ばかりです。しかも、次章で詳しく解説しますが、アメリカも輸出の拡大を望んでおり、これ以上、輸入を増やすつもりはありませんし、そうするための政策手段ももっています。つまり、TPP交渉参加国すべてが、今や、輸出依存国なのです。


また、特異な通商国家であるシンガポールを除くすべての国が、一次産品(鉱物資源や農産品)輸出国です。マレーシア、ベトナム、チリなど、低賃金の労働力を武器にできる発展途上国も少なくありません。


こうした中で、日本だけが一次産品輸出国ではなく、工業製品輸出国です。また、国内市場の大きい先進国として、他の参加国から労働力や農産品の輸入を期待されています。しかし、日本は深刻なデフレ不況にあるため、低賃金の外国人労働者を受け入れるメリットはありません。そんなことをしたら、賃金がさらに下落し、デフレが悪化し、失業者は増えてしまいます。そして農業については国際競争力が脆弱であるのは言うまでもありません。日本の置かれている経済状況だけが、TPP交渉に参加している国々とは際立って異なるのです。それどころか、むしろ利害は相反すると言ってもよいでしょう。


(中野剛志『TPP亡国論』集英社新書 PP.44-45.)

グローバル企業の本当の狙いは、TPPに参加して、「安い労働力を容易に確保できるようにする」ことでしょう。



グローバル企業がTPPへの参加を促すということは、日本の農業が壊滅的な被害を受けようが、国民が失業しようが、どうでもいいと声を大にして言っているようなもの。






どうも最近、グローバル企業が絡む政策がおかしい。法人税の減税」「高速道路料金の引下げ」(高速道路の建設費って回収できたの?)、「エコポイント」(テレビをガンガン増産してどこがエコ? CO2削減試算間違ってました!っておいおい)。


家電エコポイント、CO2削減試算ずさん 効果6分の1


そして《TPP》



自由だな。やりたい放題、新自由主義!!


「競争が厳しくて、需要がないから仕方なくやっているんだよ」



「そうなのか、かわいそうに。 わかった、わかった。書店はもっと厳しいし、もっともっと安い給料で働いているんだよ」


政府がバカでカモられていると言えばそれまでだけど、国のお金をグローバル企業に持っていかれているようなもので、手段を選ばずという感じになってきている。アメリカがトヨタをカモにして、トヨタが日本政府をカモにして、そのツケは国民へ。それこそ検察庁が捕まえようと思えばいけるんじゃないか?



ちょっと言い過ぎかもしれないけど、太平洋戦争に没入していく軍部の暴走に近いものを感じる。



今後、自動車や家電のグローバル競争はますます厳しくなるでしょう。商品の性質上、他社との差別化が難しく、誰でも作れてしまう。ライバルは韓国や中国だけでなく、その他の新興国の台頭も著しくなってくるし、新興国の成熟化や人口増の鈍化もはやいうちに訪れ、需要を掘り起こすのも大変になってくるでしょう。



このような状況下で、彼らが現行の経営方針で突っ走って、果たして生き残れるかどうか? もし見事に生き残れば、彼らに「おめでとう」と天国から言ってあげようと思うけど、そのときはすでに日本の国土はボロボロになっていることでしょう。


だから国際的な競争と国内の国土保全とは両輪としてどちらもやっていかないといけない。(谷口功一)  


やはり2011年3月11日は転機じゃないか。冷静になって、「震災復興」、「日本と世界、そしてグローバル企業の進むべき道」について、みんなで議論しましょう。