ホリエモン研究(電子書籍篇)







  はじめに

ユリイカ2010年8月号《特集:電子書籍を読む》」で、ITに詳しいホリエモンにインタビューをするという企画があって、その聞き手をリアル書店員にやってもらいたいと担当の編集者から依頼があったので快諾しました。電子書籍について、リアル書店は立場としては苦しいのですが、ホリエモンに聞けることは全て聞いてこようと思います。インタビューは6月28日、もうすぐです。下読み等の作業は終わりました。これから質問内容を詰めて行きたいと思います。


徹底抗戦

徹底抗戦


傷だらけ日本経済につけるクスリ―ホリエモン謹製

傷だらけ日本経済につけるクスリ―ホリエモン謹製


拝金

拝金








 6月25日 前説




ホリエモンという人にはすごく興味があります。ここ数日の間、著書を片っ端から読みましたが、改めて頭のいい人だと思いました。よのなかの動きをよく見通していると感心しました。電気自動車の話や消費税アップ賛成論、国債発行とGDPの関係などは目から鱗が落ちるようでした。



そもそもホリエモンに興味を持ったのはライブドア事件です。あれはやっぱり「排除」ですよね。以前、私が書いた文章から引用します。



 ライブドアとガイアエナジー

例えば、ホリエモン事件について考えてみよう。彼は法律違反をしたために社会から締め出されたということになっている。しかし、彼が侵した法律上の罪の程度は、彼が受けた仕打ちの程度とは明らかにつり合わない。なんらかの他なる力が働いたと考えるべきであろう。それは彼が内に秘めていたメッセージによると思われる。ホリエモンの人生観、彼が目指したことに共感はしないが、彼が為した社会批判は一考を要する。



ビジネスって、そんなキレイなものじゃないでしょ。大きな会社のお偉いさん方はキレイゴトを言っているけど、結構、汚いこともやっているでしょ。なぜ、それを隠すの。僕は隠さないでやりますよ。

その汚いことを露骨にやったから、ホリエモンは社会から締め出されたとも言える。この事件は、社会が内包している《醜》をホリエモンに押し付けて、排除することで、自らを浄化し延命したという一面がある。



またガイアックスというのを覚えているだろうか。ガソリンに変わる代替燃料にいち早く目をつけてビジネス展開を計ろうとしたベンチャー企業、ガイアエナジー社が製造したアルコール系燃料である(※9)。しかし、今では販売を禁止され市場から姿を消してしまった(※10)。その主な理由は、彼らが低公害と主張するものの窒素酸化物(NOx)はむしろ増加傾向にあり、必ずしも低公害とは言えないという点。また通常のガソリン用に作られた自動車に使用した場合、自動車に不具合をきたす危険性があるという点であった。



しかし一方、昨今話題になっているバイオエタノール燃料(※11)はどうだろうか。ガイアックスと同じくアルコール系燃料であるため、同様の問題を抱えているにも拘わらず、上記で指摘されている点はあまり問題とされず、普及させる方向で進んでいる(※12)。そして、その販売を担おうとしているのは、ガイアックスに対して批判的であった大手の石油会社である。



このような排除が日々行われながら、社会は延命しているという一面を指摘できる。ホリエモンガイアックスの二者に共通する問題点を今風の流行語で言えば、KY(空気読めない)である。二者とも空気が読めなかったから、正確に言えば、確信犯的に空気を読まなかったから、社会から締め出されたのだろう。



ただ、このKY問題が怖いのは、その既成事実が、締め出された側が悪いという一点張りで片付けられてしまう点である。上記の二例を見ても分かるように、締め出す側にも大いに問題がある。にも拘わらず、この点はうやむやに消し去られてしまうのである。またKY問題は、明確な倫理規定に基づいて為されるのではなく、締め出す側の都合によって為される。しかも、締め出す基準が「空気」だから、いかようにでも変化しうるし、いかようにでも説明できてしまうという点が恐ろしい。あくまで程度の問題であるが、このような事件を野放しにしておくのはやはり危険である(※13)。



先に紹介した《ビオ-ポリティクス(生-政治学)》の理論は、KY問題の暴走を防ぐために、その歯止め役としても有効に利用できるだろう。






※9 http://ja.wikipedia.org/wiki/ガイアックス
※10 http://www.enecho.meti.go.jp/topics/nennryouhp/faq/
※11 http://ja.wikipedia.org/wiki/バイオエタノール
※12 http://grnrokko.sblo.jp/article/5430082.html
※13 KY問題については内田樹氏が興味深い分析を行っている。氏の個人ブログにおける論考を参照頂きたい。http://blog.tatsuru.com/
    2008年1月5日「恐怖のシンクロニシティ
    2008年1月6日「ゲームと知性」
    2008年1月7日「“ダイナマイト”なイノベーター」

 現代社会と《ビオ-ポリティクス》




ただその反面、投資家に対して甘すぎるようにも思います。次のような問題をホリエモンはどうのように考えているのだろうか?



 ○ 金融機関の自己責任

たとえば村上ファンド阪神電鉄筆頭株主となったさい、阪神電鉄は会計帳簿をすべて明らかにしなければならなかったのに対し、村上ファンドのほうは誰が出資しているのかさえわからなかった。民主党の大久保勉代議士による国会での質問によって、福井日銀総裁(当時)が出資者の一人であったことが明らかになり、一国の中央銀行総裁がプライベート・ファンドに出資していたのか、と騒がれたわけですね。


このようにプライベートな金融機関では、誰が出資しているか、どのような運用をして、どういう利益を上げ、どういう分配方法をとっているか、ということが一切秘密にされます。だからそういった金融機関を「シャドウ・バンキング・システム(shadow banking system)」(shadow、つまり陽の当たらない闇のところ)というのです。要するに、一切当局には報告しないけれども、そのかわり自分たちが破産しても文句を言いません、自己責任ですので自由にさせてください、という約束になっているということですね。このしくみをつくったのが、1999年に法制化されたアメリカの金融近代化法です。


ただ、本当にそうした金融機関が自己責任をまっとうしているのかといえば、それはかなりあやしい。今回の金融危機で大きな金融機関の救済が臆面もなくなされたように、ぜんぜん自己責任をまっとうしていませんよね。やはり国に助けてください、となっています。



金融危機の資本論―グローバリゼーション以降、世界はどうなるのか

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 ○ 「国民」「国家」にとっての危機

16世紀に誕生した資本主義では、資本と国家と国民の三者の利害が、根本のところで一致していました。ここでいう資本とは、各時代の中心的産業をイメージすれば、わかりやすいと思います。例えば、自動車メーカーが大量の自動車をつくって販売し、経済活動を活発に行えば、アメリカ政府にとってはその分、税収が増えます。政府がその税収を使って「大きな政府」として福祉政策を拡充していけば、国民はより幸せに暮らすことができます。


これは資本主義の始まりの時期においても同じだったと思います。例えば、17〜19世紀にかけてのイギリスでは、東インド会社がインドをはじめとするアジア地域から富を強奪してくればくるほど、国家としてのイギリスも潤い、イギリス国民の生活も豊かになりました。そうした意味では、資本主義が誕生して以来、資本と国家との利害は一致していました。そして1789年のフランス革命を経て、資本と国家に国民を加えた三者連合が形成されました。1950年代、60年代にはGMゼネラル・モーターズ)にとってよいことはアメリカ(国家と国民)にとってよいことでした。400年間、三者は仲良く手をつないで、いわば三人四脚で歩んできたといえるでしょう。


ところが、サブプライムローン問題は、資本が国家と国民に対して離縁状を叩きつけた象徴的な出来事でした。サブプライムローンがつくられ、その証券化商品を売り買いしていた投資家たちは、自分たちの行為がアメリカの国家や国民にとって役に立つよいことであるとは思っていなかったでしょう。これは問題が拡大したいま、そう感じているだろうというのではなく、サブプライムローン関連の証券化商品を取引している段階から、投資家たちにはわかっていたことだと思うのです。


返済できる可能性の低い人たちに融資をつける。それを証券化して転売していけば、自分のところにはリスクは残らない。残るのは儲けだけです。資本側がとった行動は、資本と国家と国民の三位一体の関係に亀裂を入れるものでした。



金融大崩壊 「アメリカ金融帝国」の終焉 (生活人新書)

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お金に興味がないというか、「生活できればええやん」という人からすれば、投資家という人種は理解できません。経済を牽引するために必要な人種だというのは分かりますが、サブプライム問題までやってお金を儲けたいという気持ちが理解できません。


それに、サブプライム問題にまつわる金融商品の売買って、ぶっちゃけて言えば「偽金づくりの発想の転換」でしょ? あれは資本主義の終焉というよりも資本主義の中心をずらすあるまじき行為、資本主義への冒涜ですよね。あんなことをやったら当然「信用」を失いますよね。投資家は今、投資先がなくて困っているようですが、自業自得でしょう。



ガイアエナジー社問題やライブドア事件にみられる「排除」、つまり「既得権益」を死守するというのは、経済の活性化という観点からもよくないので、ホリエモンの徹底抗戦は支持します。が、それと同時に投資家に対しても働きかけて欲しいです。端的に言えば「ものすごく稼いだ投資家ではなく、いいお金の使い方をしているという投資家」を世間にどんどん紹介して欲しいです。



さて前説終了。ここまではインタビューとは関係ありません。



(つづく)