保坂和志《世界の奏でる選書フェア》


《最終版》(12月2日)



【御礼】


2ヶ月間に渡って開催致しました保坂和志《世界の奏でる選書フェア》が11月30日を持ちまして無事終了致しました。たくさんのお客様にご来店頂き、誠にありがとうございました。



 しまった!磯崎さんにサインもらうの忘れてた。。。





手応え十分の感慨深いフェアとなりました。それに、フェアはお客様に新たなテーマに関心を持ってもらうことが主な目的なので売上はあまり気にしていないのですが、今回はよく売れました。保坂先生の新作『小説、世界の奏でる音楽』は大台の100冊を超えました。また『寓話』もフェア期間中に30冊近く売れました(ちなみに現在、ジュンク堂大阪本店、福岡店でも販売しております)。選書ではベケットが満遍なく売れました。良書ですから当然普段から置いてますが、一般棚ではほとんど動かないのです。また、ヴァージニア・ウルフ灯台へ』、ルーセル『アフリカの印象』、ルルフォ『ペドロ・パラモ』、『アナイス・ニン日記』、ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』、ボウルズ『ふたりの真面目な女性』もよく売れました。思想書では、アルトー、『ルー・ザロメ回想録』、ラカン(これは復刊があったからですが)が売れ、ユイスマンスも2冊ずつと健闘し、ハイデッガーも最後に『ヘルダーリンに寄せて』が売れました。芸術書では、『ドビュッシー音楽論集』、高橋悠治大友良英前田英樹小津安二郎の家』がよく売れました。その他のジャンルでは、コミックの『大島弓子セレクション』がよく売れました。売り方次第では売れないと言われている良書も動く。今後の書店員活動の大きなヒントになりました。



保坂和志先生、駆けつけてくださったお客様、出版社の皆様、本当にありがとうございました。



《エンディング》はこれで!!!








トークショー・フラッシュバック》



「小説、世界の奏でる音楽」刊行記念トークショー(その2)



保坂和志×樫村晴香×古谷利裕

会場:青山ブックセンター本店内 カルチャーサロン青山


日時:2008年10月25日(土)18:00〜20:00





   《希望のトーク




大変刺激的なトークをありがとうございました。今までに頭のいい人をたくさん見てきましたが、そんな人でもたいていどこかのポストに留まってしまいます。でも樫村さんはそういうのを振り切ってしまっていて。

アンケート用紙にこんなことを書いたのだけど、「振り切ってしまっていて」の後が「すごいと思いました。」や「えらいと思いました。」といった月並みな言い回ししか出てこなかったので結局書かなかった。月並みではないから。


数日前、保坂先生に店頭で販売する本にサインをしてもらっていた時、「樫村は見といたほうがいいよ」と言われたのだけど、保坂作品に出てくる《友人K》なる存在を知っていた私は、その時すでにトークショーの申し込みを済ませていて、この機会を逃してなるものかと自発的に思っていたし、そして今、逃さなくて本当によかったと思っている。


トークショーは、おそらく樫村さん目当てで集まったと思うのだけど、会場につめかけた100名程の聴衆のほとんどが男で、熱心にメモを取っている人も沢山いて、気軽なお話というよりも勉強会というふうだった。


私もその例外ではなく勉強しに行ってきた。(受講料なんと500円!安い!!)こんな私でも三十数年生きているのだから、《生きる術》みたいなものは身に付けていて、それは「まず、くだらない人はどうでもよい(黙殺)。次に、自分が他人より勝っているかどうかもどうでもよい(余計なことに力を使わない)。そして、世の中には本当に優秀な人が数人いるから、その人にピタリと張り付いてどれだけ学べるかという所に自らを置くことが最も幸せである」というものだ。


昨日もそれを実践したまでで、トークショーでは前の方のいい席がとれたし、その後「来てもいいよ」と保坂先生に誘ってもらったので打ち上げにも参加したのだけど、遅れて合流したにもかかわらず、樫村先生の横の特等席が空いていたので、ここで遠慮したら一生後悔すると思って遠慮なく厚かましくその席をキープして終始誰にも譲らなかった。樫村先生に色々と質問もできたし、質問はあまりいい質問ができなくて少し後悔しているのだけど、それよりも全ての質問に明晰に答えてくださるその語りの様子や一挙手一投足を観察できたのは本当に有り難かった(ちなみに哲学者を観察する場合も、野球のピッチャーを観察するように観たらいいと思う)。


樫村晴香という人は、「生きること」と「哲学者であること」とが密接に交通している人で、優秀な哲学研究者はたくさんいるけれども、こういう人はほんの数えるぐらいしかいない。保坂和志『小説、世界の奏でる音楽』を樫村さんは「保坂の作品は一貫性がないのが特徴だけど、これは一貫している。全体にニーチェが通底していて、《ニーチェの困難》という問題が顔を出している」というように語っていて、古谷利裕さんは「ある方向へ向かって求道的に突き進んでいるという印象がある」(新潮08年11月号)と述べていて、私は以前「将棋の終盤のように直線的に何かを落としにかかっている感がある」と言ったのだけど、これは一言で言えば「 《作家の立ち位置》を問うた」ということだ(「シュヴァルの理想宮」に至っては 《作品の立ち位置》も問うことになる)。


冒頭の話に戻ると、これはタブーというか、この問題をクリアできている人の絶対数があまりにも少なく、全共闘の人たちがこれでみんなコケたこともあって問わないことになっている。「バリケード封鎖して教授を締め出した連中が、なんで平然と大学の教壇に立ってるんだ? おかしいだろ」と問うても誰もまともに答えられないから問わない。逆に「俺たちは闘った。オマエたちは何もしないのか!」と煽られても「他人に迷惑をかけてないだけマシだろ」ぐらいで軽く流す。この手の話を雑魚同士でやっても建設的な議論になる訳がない。


『小説、世界の奏でる音楽』のなかで保坂先生が、柴崎友香さんは小説でフリーターをごく自然にありのままの姿として描けていると述べている。これは就職氷河期とかロスジェネとかワーキングプアとか、そういうのとは関係なく、フリーターがフリーターである所以(どこにも属さないで生きることを選ぶ人がいる)を表現できているということだ。ただそうなってくるといよいよ作者自身が問われる訳で、柴崎さんのポジション(立ち位置)が問われる訳で、柴崎さんはフリーターではなく小説家(ある意味特権的な位置)なので、この溝はやはり決定的になるだろう。「柴崎さんはこれから何をどう描くの?」と問うている。


この問題は柴崎さんの問題というより誰もが抱えている問題であって、私自身の問題でもあるのだけど、意固地になって貫くことではないと思っていて「そういう方向への才能があってしまうならば、そのときはやります」という感じのキョリ感でいる。


樫村さんがどういう人かをここで逐一述べたりはしないけれども、「樫村晴香に出会う」とは、この凄く重たい課題を私自身にも突きつけられるということで、なにか目の前が真っ暗になるような絶望感さえ漂ってくるのだけど、樫村さんの飄々としている姿や笑みを浮かべながら淡々と語る様子を観ていたら、一縷の光が差してきて、《希望》もまた持つことができるのであった。





小説、世界の奏でる音楽

小説、世界の奏でる音楽


言葉の外へ

言葉の外へ


世界へと滲み出す脳―感覚の論理、イメージのみる夢

世界へと滲み出す脳―感覚の論理、イメージのみる夢







たくさんのお客様にご来場いただき、誠にありがとうございました。


「小説、世界の奏でる音楽」刊行記念トークショー(その1)



保坂和志×石川忠司


会場:ジュンク堂書店新宿店(8F喫茶コーナー)


日時:2008年10月17日(金)18:30〜20:30






石川忠司さんサイコー!! 『安倍晋三:確かに安倍は気にくわなかったが、首相在任中は「やめろ」としきりに言われ、辞めたら辞めたで「無責任だ」ってのはどうよ? 一体どうすりゃいいわけだ?』(『衆生の倫理』p.231.)。こういうことをサラッとフランクに言える人に悪い人はいない。今日も「保坂和志 vs. 石川忠司」という感じで、タメグチでガンガンやりやってました。次のシーンの真逆でしたね。



そんなことよりもあの子どもたちに生意気さがなかったのが、日曜日のつまらなさの原因だったんだと思った。


子どもたちは木内君に連れられていった浩二に、帽子をとって「よろしくお願いします」ときちんと挨拶し、木内君に「じゃあまずグラウンド三周」と言われると整然と走った。肥満児が二人いて、浩二は自分たちのチームにいた走るのが嫌で嫌で仕方なかった矢島を思い出したが、二人の肥満児はただ黙々と走り、矢島のようにすぐに怠けるようなことはしなかった。浩二は従順なのは子どもも大人も好きではない。従順なのよりもやる気がないヤツの方がよっぽど好きだと思っている。日曜日、あそこに行く前に浩二の想像していたのは、生意気だったりやる気のなかったりする子どもたちとタメグチでやりあうことだった(そして最後は「もう来んなよな」と言われて別れるのだ)。結局そんなことは一度もなく終わった。浩二はあの子どもたちにまったく記憶されないだろうと思った。


保坂和志コーリング」(『残響』中公文庫所収 pp.58-59.)

始まる前から演壇に両先生がいて、始まる前に「何か質問ある?」とかお客さんに問い掛けて、そしたら本当にお客さんが質問したりして、「なんじゃ、これって?」って感じで、いつ始まったのかよく分からなかったのだけど、いきなり石川さんが「世界と人間とを分けて考えるってのがおかしくて、客観と主観とかさ、そーじゃねーんだよ」みたいなことをドッカーンと言ってパネルに図を描いて、会場がドン引きしたのが始まりだったような気がする。


終わってから喫茶担当の子と話してたら「今日の2人の会話ってかみ合ってました? 心配になっちゃった」という感想だったのだけど、どうだろう? かみ合ってたような、かみ合ってなかったような? 僕は、保坂和志『小説、世界の奏でる音楽』と石川忠司衆生の倫理』を両方読んでいたから、二人とも同じようなこと考えていると思えたけど、読んでなかったらそう思えたかどうか? ハラハラドキドキ、チクタクバンバンって感じでした(汗)。


トーク中、うまくメモをとれなかったから関連する内容として、昨日読んだ、保坂和志・古谷利裕「対話 世界の奏でる音楽を聴く」(『新潮2008年11月号』所収)と石川忠司衆生の倫理』から引用しておきます。(※古谷さんの『小説、世界の奏でる音楽』の読み感覚が、僕のそれとすごく近かったのでびっくりした。)



保坂 フレームというか、作品の大枠というものを、作っている最中の作者は意外と意識していないと思うんです。その場その場の手触り、絵を描く時ならタッチ、一筆一筆しか気にしていない。画家だって常に全体をみながら描いているわけじゃないでしょう。小説も事前に計画をたてて、センテンスが緩くなるとそこを調整して、なんてことではなく、ある意味、「木を見て森を見ず」の状態じゃないと作品を作ることは出来ないと思う。それから評論者は、作ることと受け取ることが別だと思ってるみたいなんだけど、その二つのプロセスに違いなんかなくて同じなんですよ。だから読む時にただすわって受け身になっていればいいというもんじゃなくて、読む時にも作る時のような緊張がなければ、作品が持つ時間の中での出来事をスルーしてしまってフレームしか見えてこなくなる。(p.289.)


石川 意識(メンバー)と無意識(クラス)の区別が撤廃された「意識」、すなわち対象化がそのまま当の対象化を可能にする「全体」の把握に通じるような「意識」、心の一要素(メンバー)の対象化が同時に心の「全体」(クラス)の認識と化すような「意識」、本来メタレベルにある言表の主体と言表の内容とが一致してしまうと、つまり言表の主体が自分自身をも言表の内容の対象としてしまうと悪しき自己言及的パラドックスに陥るが、そんなパラドックスがかえって倫理的光明へとつながるような「意識」、総じて言えば、論理階型的分類上の誤りが、実は誤りでなくしてユニークな思考スタイルであるような自己言及的「意識」に違いない。ベンヤミンはこうしたシンプル    何しろ二分化や階層化とは無縁の完全に一枚岩なシロモノなので    な「意識」のことを「性格」と呼んでいる。(pp.139-140.)

一緒のような、違うような???







小説、世界の奏でる音楽

小説、世界の奏でる音楽


衆生の倫理 (ちくま新書)

衆生の倫理 (ちくま新書)






保坂和志フェア》やってるよ!そして、会期延長決定!!


『小説、世界の奏でる音楽』刊行記念



保坂和志《世界の奏でる選書フェア》


(あっ!猫だ!!)


会期: 2008年9月29日(月)〜11月30日(日)※会期延長しました。


場所: ジュンク堂書店新宿店7階東側フェア棚







先日(29日)保坂先生に竣工検査をしてもらった。図面でははっきりしていなかった《イチ押し本 》の指示等を受けた。僕は保坂先生の文章をけっこう読んでいるのだけど、一番意外だったのはこれかな。「これ、すっごい面白いんだよ」「えっ!?」



宗教が往く

宗教が往く



その他、例によっていろんな話を聞かせてもらって、それでおそらく一番面白かっただろう話が、スタニスワフ・レムタルコフスキーとストルガツキイ兄弟の作品制作を通じての人間関係の話だったのだけど、それにほとんど反応できなかったのは、僕がタルコフスキーは辛うじて知っていたものの、レムとストルガツキイをはっきり言ってしまえば、知らなかったことによる。面白い面白くない以前の話だ。(だって、レムと言えば、レム・コールハースという世界で育ってきたからさ、そういう齟齬もあるさ。)






阪根タイガースも書くよ!!!


「小説、世界の奏でる音楽」刊行記念というか便乗・自主企画



《阪根タイガース vs. 横浜ベイスターズ


序.


「シチュー」


季節の記憶 (中公文庫)

季節の記憶 (中公文庫)




1.保坂和志作品に関連する小論


『羽生善治とピカソ』


羽生―「最善手」を見つけ出す思考法 (知恵の森文庫)

羽生―「最善手」を見つけ出す思考法 (知恵の森文庫)




2.『小説、世界の奏でる音楽』の感想文


これから紹介する文章は書き下ろしではないのだけど、2年前、いや3年前に書いた文章で、作中アメリカで読んでいた文庫本というのが保坂和志『季節の記憶』で、帰国後買った《新潮2006年2月号》には保坂先生が『小説をめぐって』を連載していて、この時のパートは『小説の誕生』に収められたのだけど、これがずうっと連なって『小説、世界の奏でる音楽』が生まれたのだ!(ちなみにこの《新潮2006年2月号》を買った本屋はジュンク堂三宮店だ。)


それからこの号には小島先生の『残光』も載っていて、この時は読まなかったのだけどメ保坂さんモが出てきているのはちらっと見て知っていて、「ふふっ」と笑っていたような気がする。それをいまポロポロ読んでいる。それからクイちゃんがどうしてるか気になったので『もうひとつの季節』もポロポロ読んでいる。


あと、この文章のタイトルは「今日の出来事」というのだけど、これはテレビのニュース番組からではなく柴崎友香さんの『きょうのできごと』からパクった。その柴崎さんも17日のトークショーに来てくださった。


   今日の出来事




3.《世界の奏でる選書フェア》から面白そうな本を数点選んで、それを使って何か書いてしまおう。


※『小説、世界の奏でる音楽』読了直後に興奮状態で書いたメモです。とくに後半は、くれぐれも真に受けないでください。




このまえ、ミシェル・レリス『成熟の年齢』を1冊だけ買っていった若いお客さんがいて、「いい買い方するな」ってニヤニヤしていたのだけど、今日はヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』、『虫の生活』が両方売れていて、おそらく同じお客さんが買ったと思うのだけど、これはこれでニヤニヤしてしまった。あと『アナイス・ニン日記』が3冊売れていたり、西川一三『秘境西域八年の潜行抄』が2冊売れているあたりは「おおっ!」っていう感じだ。さらに先日、門松宏明さんが、そして今日(10月10日)は佐々木敦さんや中原昌也さんも棚を見てくださったようで「おおおっ!!」っていう感じだ。



フェアの本は、《古谷利裕フェア》のときもそうだったけど、やはり「版切れ・僅少本」から動きだす。すでにアルトー『ロデーズからの手紙』やパゾリーニ『生命ある若者』が完売した。あ、それから『生きる歓び』も。だから、これらはもう店頭にはないのだけど、僕はいま(10月7日)、先日下北沢の古本屋で見つけた『生きる歓び』を読んでいる。



『小説、世界の奏でる音楽』を読んでいたのだけど、序盤は予想通り「こりゃ難しいな」と思って辛抱して字面を追っていたのだけど、「K先生の葬儀実行委員として」のあたりでホッとして、慣れ親しんだ保坂作品の感じが漂ってきて、「これは行ける」と感じながら「涙を流さなかった使徒の第一信」へ突入すると、それがもう「猫まっしぐら」という感じで、初めて保坂作品を読む人なら「なんで猫についてこんなに長々と書かれているんだ!」となるかもしれないが、「そこに猫がいるからだ!」よろしく、とにかく「猫まっしぐら」なのであって、言葉の使い方間違ってるけど「猫まっしぐら」なのであって、今は「生きる歓び」を読んでいる。そしてこのまま「小実昌さんのこと」も読むと思う。(10月7日)



そう思った通り「小実昌さんのこと」も読んで、僕は田中小実昌さんのことを全然知らなかったのだけど興味がわいてきて、フェアの棚から『ポロポロ』を買って「ポロポロ」だけをひとまず読んで、もっと読みたくなったのでネットの古本屋で『アメン父』と『カント節』と『乙女島のおとめ』を注文したところで、『小説、世界の奏でる音楽』へ戻った。



そして、残りを一気に読んでしまった。びっくりした。最後にちゃんと答えが書かれていたから。『小説の自由』(2005)から『小説の誕生』(2006)を経て『小説、世界の奏でる音楽』(2008)に至るまで、小説論三部作をずっと読み続けてきたから、尚更のこと、終わりらしい終わりはないと思っていたから、すごくびっくりした。僕は8章で気付いたのだけど、7章ぐらいから文体というか息づかいが明らかに変わっていて、これはもう最後の詰めの段階に入っている、つまり終盤に入っていると読んでいて分かって、「ホントに見えてるの?」なんて探りを入れながら読んでいて、書き手は「さあ?」なんて白をきっているけど、寄せの速さ谷川浩司の如し。10章にたどり着いたら、ちゃんと王を落として終わった。



ヘーゲル精神現象学』の最後の章が「絶対知」で、これはなんてことなくて、ここまでたどりつくプロセスこそが大切だという話になってしまうのだけど、『小説、世界の奏でる音楽』は「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」という明確な答えが示される。これは「絶対芸術(絶対小説)」と言える様相であり、重箱の隅をつつくようなことは別として、基本的に論破できない。だから10章だけ読むというのもアリなのだけど、ここには落とし穴がある。「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」をいくら目指したところで「絶対芸術(小説)」にはならないということだ!!



いま(10月11日)僕は小島信夫『残光』を読んでいる。そしてこのまま森敦さんまで行きたいと思っているのだけど、今回のコースではちょっと難しいかもしれないとも思っている。







保坂和志《世界の奏でる選書フェア》 棚のようす




《世界の奏でる選書フェア》リスト

(10月30日) 棚を眺めながら、いい棚だとつくづく思う。この棚を眺めながら白飯3杯はいけると思う。そして《選書リスト》で売れた本や在庫のチェックをしながら、自分でも読みたいと思う本にざっとチェックを入れてみたらこんな感じだった。





《第1回選抜リスト》



001 保坂和志「草の上の朝食」
002 保坂和志「〈私〉という演算」
003 保坂和志「もうひとつの季節」
004 保坂和志「途方に暮れて、人生論」
005 保坂和志 『「三十歳までなんか生きるな」と思っていた』


006 小島信夫「寓話」
007 小島信夫アメリカン・スクール」
008 小島信夫「墓碑銘」
009 小島信夫抱擁家族
010 小島信夫「うるわしき日々」
011 小島信夫「残光」
012 小島信夫「月光・暮坂・小島信夫後期作品集」
013 小島信夫「殉教・微笑」
014 小島信夫・森敦「対談 文学と人生」


015 田中小実昌「ポロポロ」
016 田中小実昌「カント節」


017 「カフカ・セレクション(1,2)」
018 カフカ「城」


019 ベケットゴドーを待ちながら
020 ベケット「見ちがい言いちがい」
021 ベケット「伴侶」


022 レリス「ミシェル・レリス日記(1,2)」
023 チェーホフチェーホフ小説選」
024 クロソウスキー「わが隣人サド」


025 ボルヘス 「砂の本」
026 ボルヘス 「伝奇集」
027 ボルヘス 「不死の人」


028 ビオイ=カサーレス「モレルの発明」
029 ビオイ=カサーレス「脱獄計画」
030 ビオイ=カサーレス「パウリーナの思い出に」


031 「ギリシア悲劇アイスキュロス
032 「ギリシア悲劇2 ソポクレス」
033 「ギリシア悲劇エウリピデス上」
034 「ギリシア悲劇エウリピデス下」
035 ホメロスイリアス
036 ホメロスオデュッセイア


037 シェイクスピアリア王
038 シェイクスピアマクベス
039 シェイクスピアハムレット
040 シェイクスピアロミオとジュリエット
041 シェイクスピア「夏の夜の夢」
042 シェイクスピアじゃじゃ馬ならし


043 ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」
044 イブリン・ウォー「ブライヅヘッドふたたび」
045 イブリン・ウォー「一握の塵」


046 プルースト「ある少女の告白」
047 レーモン・ルーセル「アフリカの印象」
048 レーモン・ルーセル「ロクスソルス」
049 セリーヌ「夜の果てへの旅」


050 ムージル「特性のない男」
051 カール・アインシュタイン「黒人彫刻」
052 カール・アインシュタイン「ベビュカン」
053 ヨーゼフ・ロート「ラヂツキー行進曲」


054 ドストエフスキー「未成年」


055 セルバンテスドン・キホーテ


056 ホーソン「緋文字」
057 フォークナー「八月の光
058 フラナリー・オコナー「賢い血」
059 ピンチョン「スロー・ラーナー」


060 ファン・ルルフォ「ペドロ・パラモ」
061 ガルシア=マルケス百年の孤独
062 エイモス・チュツオーラ「やし酒のみ」


063 「樋口一葉小説集」
064 永井荷風「すみだ川・新橋夜話」
065 谷崎潤一郎吉野葛蘆刈
066 北杜夫「楡家の人々」
067 笙野頼子「金毘羅」
068 藤沢周箱崎ジャンクション
069 松尾スズキ「宗教が往く」
070 中原昌也「マリ&フィフィの虐殺ソングブック」
071 柴崎友香「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」


072 フロイトモーセ一神教
073 ハイデッガー形而上学入門」
074 アルトー「神の裁きと訣別するため」


075 尾崎放哉「尾崎放哉 句集」
076 尾崎放哉「尾崎放哉 随筆・書簡」
077 白川静「文字逍遥」


078 「エックハルト説教集」
079 スウェーデンボルグ「霊界日記」


080 「ドビュッシー音楽論集」


081 ジュール・ベルヌ二年間の休暇
082 レム「ソラリスの陽のもとに」
083 レム「天の声」
084 ストルガツキイ兄弟「ストーカー」
085 P.K.ディック「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」


086 エドワード・ギボン「ローマ帝国衰亡史」


087 「大島弓子セレクション セブンストーリーズ」

これを全部読んだら幸せだろうけど、働きながらとなれば3〜4年はかかるだろう。だから無理なのだけど、全部読みたいという気持ちは捨てきれず(無理なのだけど)、全部読んでやろうという気持ちで(何度も言うが無理なのだけど)、とにかく読み始めた。田中小実昌さんと小島信夫さんから。また森敦さんの名前も視野に入ったので数点足して、ひとまずこの3名から攻略しようと考えたのだ。





《第2回選抜リスト》



01 田中小実昌「ポロポロ」
02 田中小実昌アメン父
03 田中小実昌「乙女島のおとめ」
04 田中小実昌「カント節」


01 小島信夫「残光」
02 小島信夫アメリカン・スクール」
03 小島信夫「うるわしき日々」
04 小島信夫「墓碑銘」
05 小島信夫「寓話」


01 小島信夫・森敦「対談 文学と人生」
02 森敦「月山・鳥海山
03 森敦「酩酊船」
04 森敦「意味の変容」

ところがだ。私はこの登山のまだ一合目にさしかかったかどうかという地点でいきなりつまずいてしまった。田中小実昌『ポロポロ』に所収されている2作目の「北川はぼくに」で心底感動してしまい、ポロポロではなく、不覚にもジーンときてしまった。この作品はノーベル文学賞を受賞した大江健三郎さんでも書けないと思った。そして野心家の私が書きたいと思っていた小説は、これだったのだとピンと直観で分かった。



そんな呉の町だが、中学校や女学校より上級の学校、専門学校もなかった。広島には旧制高等学校、高等工業学校、高等師範、文理科大学もあったのにくらべると、ひどいちがいだ。人口がおおいばかりで、つまりは、よそ者があつまった町、伝統や文化のかおりなどは、まったくないような町だった。


「伝道をするのには、こんなわるい町はないな」と父がわらっていたのをおぼえている。ただし、くりかえすが、父はわらって言った。


田中小実昌アメン父講談社文芸文庫 p.12.)

「北川はぼくに」で受けた衝撃は直観的だったが、この『アメン父』を読了した時点で確信に変わった。そして私には、ほぼ絶望的にこの小説は書けないのだと分かった。「ジーン」ときて「大江さんでも」と比較してしまい、しかも「野心家」ときたら、もう救いようがない。『アメン父』はこれからの私の原点になる作品なので、かなり長くなるし乱暴かと思うが、この作品の「抜粋集」を記しておきたい。



田中小実昌『アメン父』抜粋集

田中小実昌さんを読んではじめて『聖書』を読もうと思った。33歳になってはじめて『聖書』を読もうと思った。何もキリスト教を毛嫌いしていた訳ではない。確かに家は父方が浄土宗で母方が浄土真宗といった典型的な仏教一家だが、中学・高校とキリスト教の学校に通っていたし、幼稚園もキリスト教だった。だから縁があると思っていたし、きっかけさえあれば『聖書』を読もうとは思っていた。しかし、そのきっかけが今まで全くなかったのだ。



通っていたキリスト教カトリック)の学校は校則が厳しく、独特の空気は感じていた。ただ神父や先生にとりわけ魅了するような人物がいた訳ではなかったし、彼らが率先して禁欲的だったという感じでもなかった。私の印象では、とにかく生徒に対して厳しかった。成績が悪い子は消えていったし、万引きで補導された子も消えていった。今の私から思えば、成績が悪いのは大した問題ではないし、万引きだって中高生ぐらいならやってしまいかねない過ちだ。中退で履歴に傷がつき、それを克服する苦労と秤にかければ、これらの一方的な切り捨てもどうか疑問である。



それが田中小実昌さんを読んで、『聖書』を読もうというのだから大変である。《保坂和志フェア》を担当して、まさか『聖書』を読むことになるとは思ってもみなかった。






《私の読書遍歴》



保坂和志《世界の奏でる選書フェア》


   


保坂和志『小説、世界の奏でる音楽』


   


保坂和志『生きる歓び』


   


田中小実昌「北川はぼくに」


   


田中小実昌アメン父


   


 『聖書』


   これでいいのだ。(終)









【告知】(その1)

※保坂先生の新刊が発売されました。


書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)

書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)




【告知】(その2)

※《世界の奏でる選書フェア》パワーアップしました。




鬼に金棒。桑田に清原。猫に小判
目下敵なし。はっきり言って最強です。はい。


フェア好評につき11月30日(日)まで会期延長となりましたので、保坂先生に芸術書・思想書の追加をリクエストしました。それらが全て入荷しましたので、11月10日より棚に並べています。例えば、芸術書ではデレク・ベイリーインプロヴィゼーション』、大友良英『JAM JAM日記』、思想書では『ヘルダーリン全集(全4巻)』etc.


また『カフカ・セレクション(第3巻)』(ちくま文庫)が11月10日発売になり、クロソウスキー『かくも不吉な欲望』の文庫版が河出文庫から発売されました。またラカン『精神病(上下)〈セミネール〉』岩波書店 が復刊しました。このあたりもお見逃しなく!!


あ、それから、今日(11月12日)お客さんがレジに持ってきたので気付いたのですが、大江健三郎『懐かしい年への手紙』講談社文芸文庫も復刊しました。ま、文芸文庫なので1,785円とちょっと値が張りますが、でもでも全集に比べたらね!!


 選書リスト(パワーアップ版)


【告知】(その3)

※先に開催した「古谷利裕フェア」選書リストを見やすくしました。(11月21日)


古谷利裕『世界へと滲み出す選書フェア』リスト


【告知】(その4)

※担当した「平井玄×崎山政毅トークセッション」レポートをアップしました。(11月18日)


平井玄×崎山政毅トークセッションレポート


【告知】(その5)

※《世界の奏でる選書フェア》の棚から30mほど行ったところでやっているフェアです。充実しています。合わせてお楽しみください。それにつけても、この棚作っているのは、私の先輩なのですが、この人の文章はあいかわらずの変体です。男か女かも分からない。また、この人の書く台本も面白いのですが社内機密ですので公表できません。悪しからず。


Commmons : schola vol.1 J.S.Bach 刊行記念



「バッハを読む」フェア

会場:ジュンク堂書店新宿店(7F中央フェア棚)


会期:2008年11月1日(土)〜11月30日(日)




※詳しくはこちらをごらんください。


書店記録・nogata


【告知】(その6)

読売新聞2008年11月4日(朝刊)に保坂和志先生の記事が掲載されました。


保坂和志さん、小説論3部作完結





関連イベント


トークショー「百年と残雪」
〜中国現代文学・残雪の世界へ〜



近藤直子×古谷利裕

会場:「百年」(吉祥寺)


日時:2008年10月18日(土)20:00〜22:00


ダイジェスト: その1 その2




ブックフェアだけじゃないよ! 芸術の輪!!!



イベント等のお知らせが続々と届いています!!!


《建築》渡辺明『千本松 沼津倶楽部』

建築家の渡辺明先生が新作を発表されました。私にとって先生と過ごした4年間は辛い記憶しかありませんし、この作品の現場も大変で何名かは倒れていることでしょう。今の私の器ではその点を肯定することはできませんが、渡辺先生から産み出される作品はやっぱりいい作品だと思います。あと図面は小玉佳久さんだと思います。毎度のことながらいい図面を引いていると惚れ惚れしてしまいます。私にはできなかった。


《絵画》岡崎乾二郎展



会期:2008年10月14日(火)〜11月11日(火)


会場:南天子画廊(東京・京橋)


《絵画》山内崇嗣展



会期:2008年9月23日(火)〜10月11日(土)


会場:Gallery Countach(西武池袋線東長崎)


《ファッション》コウノチヅル『寄せ裂者のジャケット』展



会期:2008年10月1日(水)〜10月8日(水)


会場:GaleriaM(表参道)


《写真》湊雅博『環   fusion』展



会期:2008年11月7日(金)〜30日(日)


会場:アップフィールドギャラリー


《演劇》ハイバイ『オムニ出す』



会期:2008年10月19日(日)〜11月5日(水)


会場:リトルモア地下(原宿)


《哲学》西山雄二『ジャック・デリダ入門』



会期:10月30日、11月20日、12月18日


会場:朝日カルチャーセンター・新宿

若手批評家、創作者によるセッション形式のレクチャーシリーズ
《批評》批評(創造)の現在シリーズ



出演者:伊藤亜紗上崎千・柳澤田実
    池田剛介黒瀬陽平沢山遼
    千葉雅也・平倉圭福嶋亮大
    福永信・松井茂・水無田気流


会期:10月21日、11月4日、11月18日、11月30日


会場:四谷アート・ステュディウム講義室


《野球》阪神タイガース《クライマックス・シリーズ》



結果: 球児が打たれたらしゃーないよ。
    岡田監督お疲れ様でした。
    来年はゼロからのスタートですな。






小説、世界の奏でる音楽

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残光

残光


ポロポロ (河出文庫)

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次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? (河出文庫)

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衆生の倫理 (ちくま新書)

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世界へと滲み出す脳―感覚の論理、イメージのみる夢

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阪根Jr.タイガース


好評?連載中!こちらもよろしく!!