《写真展》LAND SITE MOMENT ELEMENT・山方伸(解説編)



先程開催された「《写真展》LAND SITE MOMENT ELEMENT」の一環として行われた《DIVISION-1 ギャラリートーク》の前半部、私(阪根)の作品解説のみですが公開します。



※ 坂本政十賜作品の解説はこちら


続いて山方伸作品を見ていきたいと思います。






 作品編



まずはこちらをゆっくりご覧下さい。


 山方伸『LAND SITE MOMENT ELEMENT』展示作品







 解説編






それでは解説を始めます。






 1.全体をざっと見る。



坂本さんとは対照的に「地方の風景」で「モノクロ」です。まず、こちらの3枚から見ていきましょう。




 fig.1



 fig.2



 fig.3


いかがですか? 《fig.1》は中央の樹が強い印象を与えてますね。《fig.2》は特別な印象はなし。《fig.3》は、遠方にある家型の建物が象徴的に見えます。


次行きましょう。




 fig.4


この写真はDMにも採用されていましたが、なんか気持ち悪いですね。真ん中あたりの「ヌメッ」とした感じなんか特に。山方さん自身が今回一番の問題作としている作品であり、僕も同感です。細かい解説は後でしますが、とりあえずこの1枚は覚えておいてください。あと、さっき見た《fig.1》も問題作というか、これは傑作だと思います。




 fig.1


こちらの1枚も覚えていてください。今回の山方作品でどれかと問われたら、僕はこの2枚をあげます。違う意味で行くところまで行ってしまった。そういう作品です。


次行きましょう。




 fig.5


どこを見ていいのかわからないですね。この坂のあたりがなんとなく気になるでしょうか。次行きましょう。




 fig.6


なんでもない写真ですけれども、1点指摘しておきます。山方さんの風景写真の特徴なのですが、この写真は《近景・中景・遠景》の構図がきっちり取れています。なんでもない写真ですけれども、構図がしっかりしているので鑑賞者に安定感を与えます。


次行きましょう。




 fig.7


困りましたね。この写真だけみて「スゴイ!」と絶賛する人いますか? いたらぜひ話を聞かせて頂きたい。この写真は見るべきものがない。僕も態度を保留したまま次行きます。




 fig.8


これはうまいですね。なぜうまいのか、ちゃんと説明できますよ。あとで説明しますけど、ここで確認しておきたいのは、山方さんは地方の風景を撮ってますが《ノスタルジー》とか、そういうのを狙っている訳ではないということです。モノクロということで多少、そういうふうに感じてしまうかもしれませんが、そうじゃない。「《地方》だから」とか「なにか《決定的な瞬間》を」というのではない。《事件・事故》でもない。あといわゆる《絶景》でもない。では山方さんは何を撮ろうとしているのか? それを考えてみてください。


次行きます。




 fig.9


これもなんともコメントできませんね。次行きます。




 fig.10


これはちょっと言えるのが「おめん」ですね。あと「おみくじ」ですかね。これらが整然と並んでいるのを手前のテント屋根で邪魔してます。このあたりがひねくれてますね(笑)。


次行きます。




 fig.11


「家型」の反復ですね。手前の民家と奥のタワーマンションの対比がうまいですね。《fig.3》の写真も「家型」が印象的でしたが、これも同様に結構強い印象を受けますね。


そして最後。




 fig.12


川の溜まりを撮った写真ですね。どんよりしてます。なんか冴えない感じ。気持ち悪いですね。



ざっとこんな感じでしょうか。どうですか? 何か手応えを感じましたか?





 2.山方作品の特長



では詳しく見て行きましょう。僕はさっき《fig.1》と《fig.4》が違った意味で今回の最高傑作だと言いました。そして《fig.8》はすぐにでも、その巧みさを説明できると言いました。


ところで、昨年の《Invisible moments》展をご覧になった方いらっしゃいますか?


 《写真展》Invisible moments


振り返ってみましょう。山方さんの出展作品の図版がないので僕のメモで我慢してください。




 メモ(拙者ノートより)


まず、鶏が中央にいる写真と、あとフォルムのかわいらしいアヒル?のボートの写真がありました。いわゆるサービスショットです。で、これらはお客さんの反応もよかったんですよ。なにも否定的に言うわけではなくて、坂本政十賜さんの写真の新橋のにいさん(fig.4)や、ワンレンボディコンの姉ちゃん(fig.9)とも同じで、映っている人・物っていうのはやはり重要なのです。


しかしもっと重要なことは、山方さんの写真は「それだけじゃない」ってことです。で、昨年一番山方さんらしい作品だと思ったのが、「小屋をとった写真」だったんです。メモで「全部要素ちがう」って書いてある写真です。小屋はトタンでできていて、手前にビールのケースが積んであったり、道にも廃材が敷き詰められていたりというふうに雑多な要素が映っていたのですが、それがちゃんと絵(写真)として成立していたんです。山方さんは雑多な要素の捉え方、構成の仕方がもの凄く巧みなんです。





 3-1.《fig.8》の作品解説





 fig.8


撮られている建物自体は凡庸です。なんですかね、これ? ラブホテルですか? そういうのは問題じゃないんです。率直に映っているものを見ていきますよ。まず「手前と奥との《対比》」は分かりますか。「手前が黒 / 奥が白」。「白=しろ=城」。お城に掛けているんですね。うまい!


それから、「手前に丸太」が積まれてますね。そして「奥に土管」が積まれてますね。《同じ形の反復》です。さらに奥、タワーとまでは言いませんが「円筒型の塔」が立ってますね。こういう連続した構成を組む。しかも「ちょっと奥にU字型溝」が積んでますね。これは形は異なりますけど「土管と《呼応》」してますね。構図で言えば《近景・中景・遠景》をおさえて、各々が連続しながらも違いをつけるという役割を明確に果たして画面全体を構成していくんです。「家型も手前、奥、さらに奥」と連なってますしね。


これです。山方作品の見どころは。建築をつくるみたいに組み立てるわけではなく、すでにあるものを撮っているので、《構築術》ではなく《眼術》というのかもしれませんが、画面全体を隈無く捉えて1枚の絵(写真)を成立させていく。1ヶ所に面白いものが映っていて、それで終わりという撮り方はしないんですよ。坂本さんの作品についても指摘しましたが、こうやって画面全体を隈無く捉えるというのは、プロの写真家と言えどもなかなかできないと思います。





 3-2.《fig.1》の作品解説





 fig.1


これはまずなんと言っても「中央の樹」ですね。すごく強い印象を受けます。この樹の撮り方はとても山方さんらしい。山方さんの写真の特長は、その《フレームワーク》にあると思います。フレームって何も枠をつけるというだけじゃなくて、「視野を限定する・視線を方向付ける」ということです。あるいは「対比させて区別する」ということで、「見えなかったものが見えてくる」、そういうことだと思います。それで、これだけ樹が強いので「樹とそれ以外」という見方になるんです。


これは風景写真の王道の撮り方とも言えます。富士山がドーンとあって「ああ美しい!」というあれですね。




 富士山



あるいは新聞に掲載されている、例えば渋滞を報道する写真。



 
  渋滞の写真


「ああ、渋滞してたんだ」って分かります。でも、それだけでしょ。それ以外なにもないでしょ。山方さんは違いますよ。今一度よく見てください。




 fig.1


この写真の場合、他にもあるでしょ。まず「両サイドの建物」です。同じような段々になった建物で「一方は団地、他方は民家」です。「新旧」を表現して《対比》させつつ、同時にこれを《シンメトリー》としても捉えられるようになってます。


これだけじゃないですよ。この写真もやはり《近景・中景・遠景》といった明確な構図が取れています。しかも遠景に目をやると「岩」がにょきっと立っている。「この岩は手前の樹と《呼応》」してます。そして「両サイドの建物(人工物)と中央の木々(自然)との《対比》」。


この写真がスゴイのはこういうことです。今ざっと指摘しただけでも5点あります。山方さんは「1枚の写真でいくつもの見方が成立するような撮り方」をするんです。《fig.8》もそうでしたね。さっき紹介した昨年の展示での「小屋を撮った写真」もそうでした。雑多な要素が1枚の写真に映り込んでいるにもかかわらず、《構成力》が天才的に優れていて、構図が取れているので、鑑賞者がちゃんと認識できるのです。これが山方作品の醍醐味です。《fig.1》は顕著ですが、その他の写真も同じことが言えます。



《fig.2》を見てみましょう。




 fig.2


この写真の特長は《フレーム》です。というのは、僕は展示前に山方さんの写真を見せてもらったのですが、実は今回展示してある写真の5倍ぐらいの枚数があって、そのなかにはフレーム、枠が強調された写真がたくさんあったんですよ。


それらのなかに《fig.2》があると気付きやすいのですが、まず左下に「フレーム」を確認できます。また右下の放置されている重機も「枠」として認識できます。でも「フレーム(枠)」だけじゃない。これらの廃材がラインを形成して《奥行き》を出しています。


手前の「フレーム」や奥にある家の「窓枠」などの散在する「フレーム」を認めつつ、全体を見ると、わっとイメージが浮かび上がってきます。



続けて《fig.3》も見てみましょう。




 fig.3


これも家型の建物だけじゃない。手前に流れるようなプランターのラインが気になります。「手前・真ん中・奥」とオブジェを認識していきます。どこか1ヶ所だけでなく、やはり全体に眼が行き届いています。





 4-1.家型(記号)の活用



ここで「家型」についても説明しておきましょう。山方さんは構図や造形的な側面だけでなく「記号性」も活用しています。《記号》という要素も風景写真には欠かせません。


今回の展示作品から「家型」のシリーズを抽出できます。《fig.3》《fig.4》《fig.9》《fig.11》の4枚です。




 fig.3



 fig.4



 fig.9



 fig.11


こうやって並べるとものすごく認識しやすい訳です。この4枚だけの展示だったら物足りないですが、山方さんは《タイポロジー》という見せ方も取り入れています。





 4-2.《fig.4》の作品解説




それでは、注目作品《fig.4》を解説します。




 fig.4


これは恐ろしい写真です。


「家型」というのは強烈な《フレーム》です。この形をしていたらもう家にしか見えない。《fig.4》でもまず「家」を認識します。しかも斜めに振ってますから、さらに強く「家」を認識する訳です。


でもどうです? これだけ「強いフレーム」であるにもかかわらず「建物自体はのっぺりしていて気持ち悪い」。しかも手前の地面(空白)の砂利の「テクスチャー」と連なっているよう(=空白)です。


「家型」という強烈なフレーム。そして構図。「真ん中の家が《斜め》に振ってある」のに対して「背景の家は《平面》をくっきり現しています」。もう本当に「ここを見てください!」と言わんばかりの過剰とも言える構成を組んでいるのです。


なのに、なのに、肝心の建物が「ぬめっ」って! あり得ない!! 「見るべきものの仕掛けが完璧なのに、見るべきものがない」。ものすごい《裏切り》です。あとで山方さんに詳しく聞きましょう。



今回、こういう作品が何点か出てきたんです。《fig.4》以外にも《fig.7》とか《fig.12》とか。




 fig.7


《fig.7》は、これだけ見せられるとさすがに困るんです。これだけで評価できる視点を僕も持っていません。まさか、この凡庸な国産の車をフレームとは言えませんしね。もう少し強い何かがないと絵的に成立しない。




 fig.12


《fig.12》は、ある程度説明できますが、説明すればするほど気持ちが悪くなってくる写真です。


まず《フレーム》の存在を指摘できます。これは「邪魔するタイプのフレーム」で、橋桁が覆っていて視線を邪魔するのです。で何を邪魔しているのかと言えば、奥の大きな樹です。枝っぷりもよくて絵になります。これを隠してしまっている。この樹の像が川面に映っているんですね。逆さまに。これは本体の樹も見えたらかなり安定するんですよ。それこそ富士山の写真みたいに「おお、綺麗だ!」と言えそうな写真です。こんな感じで。



 
  富士山



ところが《fig.12》は「樹の本体を隠している」から、安定しない。




 fig.12


それだけじゃない、このグニャッとした堤防もそうですね。確かに「遠近法」がかかっていて、ボートと堤防が視線の先で重なるのでそれなりに安定しますが、中央は水面で《空白》ですからね。ポカーンとしている。映っている樹だって逆さまだから安定感はない。しかも「水面」というのはやはり気持ち悪いですよ。淀んでいて。





 5.まとめ



まとめます。山方さんの写真は、坂本さんの写真と同様に、一見《凡庸》に見えます。しかし、じっくり見ていくと「巧みなフレームワーク」によって、素人には真似できない複雑な構成を取っていることが分かります。だからじっくり見れば《味わい》があります。


その極地とも言える作品が《fig.1》や《fig.8》です。



 fig.1



 fig.8



他方で、それに反するような、自らの作風をぶち壊すような作品、《fig.4》《fig.7》《fig.12》も出てきました。




 fig.4



 fig.7



 fig.12



このあたりが、今後の山方作品においてどのように展開していくのか? 興味深いポイントだと思います。



長くなりました。ご静聴ありがとうございました。









 《展覧会の感想文》nogataさん


 『LAND SITE MOMENT ELEMENT』展

 山方伸ウェブサイト







阪根Jr.タイガース


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