村上春樹『1Q84』
感想文:《1Q84以後》
滅茶苦茶売れてます! 村上春樹『1Q84』。これだけ売れる小説は他にないでしょう。これだけ多くの人と話を共有して文学作品について語り合えることはないでしょうから、僕も感想文を書きます。レベルの高い議論が広く交わされますように!!!
僕はどちらかと言えば、モダニスト(フォーマリスト)なので村上春樹をすんなりとは認めたくない。氏の作風はバロックっぽいから。でも数年前から僕自身の思考にも限界を感じているし、バッハって面白いなって思うし、鹿島田真希さんも先日のトークで、バッハに言及していたし、最近ではベルニーニなんかも見直しているぐらいなので、村上春樹も無視してはいない。
ちょっときっかけがあって、昨年末に『アフターダーク』を読んで、今年3月に《初期三部作》を読んだ。前者は「人物をつくりすぎ」ってあまり好感を持てなかったけど、後者はけっこう好きだ。そして、確かに読ませる。夢中になって読んだ。
今回の『1Q84』も同じく夢中になって読んだ(5/27〜6/5)。(フェアの準備とかですごく忙しかったんですよ。それにフェアの準備は手を抜いてないですよ。ニモカカワラズ、読んだのです。)
道中、「ドラクエかよ!」ってツッコミいれたり、ヤナーチェックの『シンフォニエッタ』ってどんな曲か知らないし、これ買っちゃったら村上春樹ワールドに完璧に持ってかれると思ったから抵抗して、あくまでもマイベースで読んだ。
毎日読む前に「ドラクエのテーマソング」を口ずさみ、山場のシーンでは「必殺仕事人のテーマソング」を頭のなかで流しながら三田村邦彦をイメージして「プシッ!」(痛)って。あくまでもこちらのペースで読み続けた(笑)。
さて。感想。
『1Q84』が我々に伝えたことは、「1984年」という現実の世界とは別に「1Q84年」という物語の世界があるのではない。体裁としては「現実世界」ではない「物語世界」であるがしかし、それが「現実/物語」という二分法が成り立たなくなることを実証しようとしている(すでに実証してみせたと言えつつある)。
村上春樹だけが何故これほど売れるのか。それが良いことなのか悪いことなのか、それは分からない。村上春樹自身も好んでこのような能力を得たというより、どちらかと言えば、持ってしまったという感じだろう。ならば、この能力でなにができるか。それを考えれば、答えは一つ。それを『1Q84』で正面から真摯に取り組んでくださったように思う。この村上春樹氏の営為に敬意を示したい。ありがとうございます。(ただし、扇動の危険性が伴うので、そのあたりは慎重にせねばならない)。
『1Q84』を読んだ我々は、もう「1984」年の世界には戻れない。村上がもっとも問題としているのは「1995」年であり、バブル以後の失われた10年であり、そして2009年現在ということだろう。しかし、1995年について言えば、1995年を反省的に捉えるのではすでに手遅れである。もし立て直す可能性があるとすれば、それ以前「1984年」でポイントを切換えることではないか。1985年の「プラザ合意」の成立を前にポイントを切換えてしまう必要がある。この辺りまでを踏まえて修正をほどこさねばならない。(ちなみに、太平洋戦争でもおかしかったのは、戦争が始まるずっと以前、昭和7,8年ごろと言われている。戦争へとわーっと引っ張っていく強い力が働いて、昭和12,13年頃にはもう戦争をやるという空気ができ上がっていたらしい。そして開戦は昭和16年。)
またコミューンについてもオウム真理教のようなカルト集団をイメージして即異端としてしまうのではなく、少なくとも戦後のコミューン史ぐらいは視野に入れて議論すべきだろう。
あと、もちろん『1Q84』は《文学》としてはジョージ・オーウェルの『1984』を受け継ぐという意味があり、そのあたりの再考も必要だろう。
ただし一言断っておく。Book2のラストで希望を持つ一方で、ぞくっとするのはこのあと天吾はどうやって生き延びてゆくのだろうという不安である。「さきがけ」が解体された訳でもないし。つまり『1Q84』を読んだからといって、読者である我々は救われた訳ではない。「1984」にはもう戻れないのも確かだが、これから先は天吾どうこうではなく、我々が自ら築き上げていかねばならない。《愛》の力を信じて!
ここまで書いてくれたらもう十分だ。これ以上は作家個人の力どうこうではないでしょう。
大切なのは、我々じしんの力だ!
さぁ、小説を読もう!
さぁ、演劇を観に行こう!!
《芸術》は永遠に不滅です!!!
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