東大全学自由研究ゼミ発表
東京大学、全学自由研究ゼミナール
『いま、知の現場はどこにあるのか大学、批評、出版』
第10回:「人文書を販売することの喜びと苦しみ」
日時:2009年12月10日(木)16:20〜17:50
場所:東京大学駒場キャンパス
学生レポート:《東大批評》
一番右にいる下向いてる人が私です。。。
《個別発表》
タイトル:「ハブ型書店の可能性」
発表者:阪根正行(ジュンク堂書店新宿店人文書担当)
※ 実際に教室で話した内容の一部を省略し、また大幅に加筆しています。
こんにちは。ジュンク堂書店新宿店で働いてます阪根正行と申します。本日はこのような貴重な場と時間を与えて頂きありがとうございます。みなさんには頭では敵いませんが10年ほど余分に生きてますので、その間に経験したこと、学んだことをできる限り伝えられればと思います。
はじめに.
今日は書店員としてお招き頂いた訳ですが、私はもともと建築設計の仕事をしてました。渡辺明先生という建築家の事務所に勤めていたというか、弟子入りという感じで在籍していました。先ほどお話された永田さん(早大生協ブックセンター)も建築設計業からの転身だと聞いてびっくりしたのですが、建築の世界はなかなか厳しいです。このゼミの参加者は文系の学部生がほとんどで、工学部のことを知る機会は全然ないと思うので、建築のことは余計かと思いますがざっと話しておきます。
建築設計をやろうと思った場合、大きく2つのコースに分かれます。1つは日建設計や日本設計、あるいは大手ゼネコン、竹中工務店や鹿島建設の設計部、あと積水ハウス等のハウスメーカー、大手ディベロッパーの設計部というコース。これらを一般的に「組織系(設計事務所)」と言います。労働環境は少々きついですが、世間一般で想像されているようにそれなりの暮らしが保障されています。
それで問題はもう1つのコースで、建築家の事務所に勤める、あるいは卒業していきなり自分の事務所を立ち上げるという人もいますけど、いわゆる「アトリエ系(設計事務所)」と言われるコースです。安藤忠雄さんや妹島和世さんなんかをイメージしてもらえばよい、一般的に《芸術》と言わる建築です。こちらのコースは正直厳しいです。
労働環境も悪くて朝は9時,10時スタートと遅いのですが夜は終電、1時2時まで働いていたりします。こういう生活が続くので体調を崩したり、だんだん精神がおかしくなってきたりします。給料も院卒でも月15万ぐらいじゃないかと思います。ま、生活できないんでだいたい3〜4年勤めて独立をめざす訳ですが、独立して事務所を立ち上げるとなると、まず自分なりのデザインを確立してなければならないし、一通りの仕事は覚えてないといけない。それから経営、営業のセンスもいります。そして建築は大きなお金がうごくので、若いうちに仕事を依頼してもらうというのは非常に難しく、やはりキラリと光る何かがないと仕事のチャンスを得られません。できる人はできるけど、できない人は努力してもなかなかできません。ものすごく難しいんです。
それで私はというと、建築家の渡辺明先生の事務所に4年ほど在籍しましたが、その後自分自身で設計事務所を立ち上げて食べていくだけの力もなく、ヴィジョンも立たなかったので建築の道は断念しました。ちょうどプロ野球の世界をイメージしてもらうといいと思います。プロ入りしたものの1軍の試合に出ることなく戦力外通告をくらって引退した選手のようなものです。よのなかは厳しいです。はい。
それで人生をリセットして考え直しました。もともと学生時代は設計よりも勉強会や研究会を中心に活動しており、ちょうどこのゼミを企画した東大批評の有志の活動と重なるかと思いますが、彼らと同様に冊子をつくったり、出版のお手伝いなどをしてました。そういったこともあり、建築は諦めたけれどもなんらかの形で芸術活動に関わっていきたい。執筆という形ならば活動を継続できるかもしれない。そう思って書店で働きながら執筆活動を立ち上げていくという道を選んだ訳です。
こう言えばちょっとは格好がつくかもしれませんが、ひとことで言えば「建築難民」です。(会場・笑)
という訳で前置きがながくなりましたが、私が書店員として活動を始めたのが2006年、30歳になってからでまだ4年弱のキャリアしかありません。今日は辻谷寛太郎さん(東大生協本郷書籍部)、永田淳さん(早大生協ブックセンター)という書店員の大先輩からすでにお話がありましたので、私だけしか語れないこと、大型書店にテーマをしぼって話したいと思います。
1.大型書店の販売形態
・平台型(新刊・ベストセラー中心)・・・(例)紀伊國屋書店
・図書館型(蔵書数重視、読者の能動性重視)・・(例)ジュンク堂書店
・催事型(イベント、フェア戦略)・・(例)リブロ(80〜90年代の池袋本店)
まず、大型書店の販売形態について説明したいと思います。大きく分けて3つ言えると思います。
1つ目は、紀伊國屋書店をイメージすると分かりやすいと思いますが「平台型」。平台にびっしり本が積んである、新刊・ベストセラーを中心とした売り方です。時代によって多少の変化はあるでしょうがやはり新刊が読者を惹きつける力は強いです。逆にこの力がなくなるとヤバイというか、各出版社この力に頼りきって新刊を乱発している状況なので相当ヤバイのですが、ともかく販売形態としては理にかなっています。それに紀伊國屋書店さんの場合はとにかく新刊・ベストセラー本の管理は徹底しているというか、品切れすることがないように口を酸っぱくして店員にその意識を浸透させています。見習いたいです。
2つ目は、ジュンク堂書店の売り方ですが、よくお客様に「わっ、図書館みたい!」って言われるのですが、その通り「図書館型」という売り方です。つまりお客様の能動性を重視して、お客様が欲しいと思った本が全てとは言わないまでも、ほとんどあるといった蔵書数を重視した売場作りです。 本というのは、多品種少量生産で、自動車や家電と単純には比較できないんです。例えば新聞に書評が載った、王様のブランチで紹介されたということで売上が一時的に上がることはありますが、それでも高々しれてます。実際みなさんの読書経験を振り返ってもらえば分かるでしょう。読書の習慣がそれなりのできてきて、こうやってレクチャーに参加したりすれば、自ずと問題意識が芽生えて、それに沿って本を購入して読んでいると思います。だからお客様の能動性を重視するというのは何も消極的というのではなく、理にかなった売り方なのです。 これについては、福嶋聡さん(ジュンク堂書店)の『希望の書店論』(人文書院)に詳しく書かれていますので、興味のある方は読んでみてください。
- 作者: 福嶋聡
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2007/03/01
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3つ目は、正確に言えば過去の話になるのですが、80〜90年代のリブロ池袋本店に代表される「催事型」です。つまりイベントやフェアを仕掛けて本を売るという手法です。これは今では考えられないんですが、当時のリブロでは1回のフェアで何百万、何千万という売上を記録していたようです。リブロはもともと西武百貨店の書籍部としてスタートした店なので、催事に強かったんですね。そういう企業風土なのでフェアにちゃんと予算もついたようですし(私がやってるフェアなんて予算どころか残業して作業する場合もお願いしてやらしてもらっているという、、、)何よりもバブルという時代背景が絶対的な後押しになっていました。それに「今泉棚」と言われていたように、今泉正光さんという「ニューアカ・ブーム」を仕掛けた本当のカリスマ書店員がいました。この方は立教大学の先生のところに通って教えをうけ、書籍情報を集めていたような人でした。あと堤清二さんの存在も当然ありますし、この売り方は理にかなっているというか、いわば書店員の夢、もう本当にありえないような条件がいくつも重なって実現した奇蹟です。 これについては、田口久美子さん(ジュンク堂書店池袋本店3F文芸コーナーにいらっしゃいます)が書かれた『書店風雲録』(ちくま文庫)に詳しいので、そちらを参照してください。
- 作者: 田口久美子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/01
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あとはブックファーストや丸善の特徴を紹介してもいいのですが、とりあえずこの3つの販売形態を押さえておけば良いと思います。
2.ジュンク堂書店新宿店での試み
それで、この3つの販売形態の動向はどうかと言うと、1つ目の「平台型」(新刊・ベストセラー中心)は今でも有効な戦略ですが、売上は伸びてないと思います。また3つ目の「催事型」は、例えば往来堂書店の「文脈棚」といったような提案型の棚として、小規模店舗ではちらほら成功事例が聞かれますが、大型書店では今はもうありません。(※ 丸善の丸の内本店にオープンした松丸本舗が軌道に乗るかどうかは見物です。)そして、2つ目の「図書館型」がお客様に支持されこの十年程売上を伸ばしてきたのですが、ここにきて頭打ちというのが実情です。そこで私がジュンク堂の新宿店で意識してやっているのが次のような販売形態です。
・メイン・・・一般棚(図書館型)
・サブ ・・・フェア棚・トークイベント(催事型)
別に新しくも画期的でもない販売形態で「図書館型」と「催事型」の両刀遣いです。ポイントはあくまでも「図書館型」がメインで「催事型」はサブという点です。 基本的に利益は「図書館型」の売場で確保しようという考え方ですが、これ一本ではやはり弱い。リアル書店の利点として「買おうと思っていた本の横にあった本をたまたま気になったので手にとってみたら良かったので買った」という話をよく耳にしますが、この効果もお客様を惹きつける決め手とまではなりません。実際には「図書館型」の需要はアマゾンなどのネット書店にシフトしていると言えるでしょう。
そこでリアル書店の販売員として意識してやっているのが「催事型」を併用する戦略です。ともかくまず第一にお客様に店に足を運んでもらわねばなりません。実際に買ってもらえなくても「何か面白いことをやっている」という期待が集客に繋がるのではないか(まだはっきりとした裏付けはとれてません)。またお客様が自ずと問題意識を持つと言っても、例えばこのレクチャーがきっかけになったりするように、どこかしらで得た情報を元に問題意識が芽生える訳です。だからそう考えれば、書店でも「新しい出会いの演出」は可能ですし、何よりも手に取れる現物の本を並べられるという強みがあります。だから「催事型」もメインとまではいきませんが、サブとしては十分に活用できるのではないかと考えています。 ただこの点に関して、私自身が意識的にやるようになってからまだ2年しか経ってませんし、実際フェア棚で満足できる売上はまだ達成していないので、そういう意味でも「サブ」としか言えません。
3.フェア・イベント活動の軌跡
私がフェアやトークイベントを意識的にやるようになってから間もないですし、はっきりとした効果が見えていないので、ちょっと先走った発表になるかもしれませんが、これまでやってきたことをざっと紹介します。
《3-1.活動のスタイル》
1.店頭(棚づくり・フェア・トークイベント)
2.個人活動(ブログ)
私の活動は、基本的に店頭での活動と《阪根タイガース》という個人ブログでの活動の2本立てでやっています。店頭での活動は仕事として給料をもらって、ブログは無給でいわば趣味としてやっています。個人活動としてやっているブログの効果がどれ程あるのか? 確かに高々しれてます。ただこれを店のオフィシャルのHPでやるとすれば経費も発生しますし、もしお金を出してやっても形はそれなりに格好がつくでしょうが面白くはならないと思います。結局人次第ですし、ウェブの専門スタッフでは無理で、売場の人間でないと情報の更新、細かい目配りが行き届きません。(※ ツイッターの導入は検討中です。)
《3-2.フェア・イベント活動の軌跡》
[活動の原点:きっかけとなった本(その1)]
大谷能生・門松宏明『大谷能力のフランス革命』(2008.3)
- 作者: 大谷能生,門松宏明
- 出版社/メーカー: 以文社
- 発売日: 2008/03/06
- メディア: 大型本
- 購入: 2人 クリック: 323回
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フェアやトークイベントを開催するのは、もちろん書店員次第でアイデアさえ出せば色々できるのですが、出版社の方や著者に協力してもらえるかどうかがやはり決め手となります。今は人と人との繋がりがだんだんできてきて、著者に気軽に協力してもらえるようになりましたが、初めは自分一人で勝手にやっていて、フェアの反響もなかった。その転機になったのが、大谷能生・門松宏明『大谷能生のフランス革命』(以文社)という本の出版です。
ちょうど産経新聞に書評を書くチャンスがあったので何か良い本はないかと探していた時にこの本に出会ったのです。音楽家であり批評家でもある大谷能生さんが様々なジャンルのアーティストと語り合った連続トークイベントを記録した本で、まずその人選が魅力的でした。冨永昌敬(映画監督)、岡田利規(劇作家・演出家・小説家)、志人(詩人・降神MC)、西島大介(漫画家)、杉田俊介(文芸批評家・介護労働者),etc.
また内容も非常に濃くて、新聞に書けるのは250字程度しかなかったので、改めて自分のブログに渾身の書評を1・2・3回に渡って書きました(我ながらすごい!)。これは私の個人ブログの転機にもなったように思います。またミニフェアも開催しました。
そして、大谷さんが書評を読んでくださったり、また私も出版記念イベントに参加することで実際に著者の方とお会いすることができました。それで本もそうなのですが、実はもっと重要なのが、大谷能生さんと門松宏明さんという人間が非常に魅力的だったということです。
大谷能生さんは音楽家で自らも奏者としてコンサートを開いてます。そして文筆家・批評家として書籍も出版されています。しかもそれだけではなく、ギャラリーでイベントを企画したり、俳優とユニットを組んで公演をしたり、実に様々な展開をされています。もともとは「エスプレッソ」という音楽系ミニコミ誌を作る活動からスタートされたようですが、このようなジャンルにとらわれずアクティブに活動している人と実際に出会ったことで、私も大きな刺激を受けました。
また共著者の門松宏明さんも刺激的な方で、主にエディトリアルデザイナーという形で書籍づくりに関わっておられますが、その仕事っぷりが尋常じゃない(笑)。もう凄いんです。人間の仕事とは思えない徹底ぶり! それで本を作るだけではなくて、売場にもしばしば足を運んでくださり、フェアを仕掛けてくれたり、積極的に協力頂いています。(※ 門松さんとの連携企画は当店の芸術書担当が展開していますので、そちらをご覧下さい。)
自分自身でも色々と思い描いてみるのですが、直接人にあって受ける影響というのは計り知れない力があります。大谷能生さん、門松宏明さんというお二方はまさにそういう人です。
[活動の原点:きっかけとなった本(その2)]
- 作者: 東浩紀,北田暁大
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2008/04/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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『思想地図とその周辺
70年以降生まれの思想家・アーティスト特集』(2008.6)
それからもう一つ、きっかけになった本を紹介させてください。これは昨年、2008年4月にNHK出版から『思想地図』という雑誌(正確に言えば書籍)が創刊されたことを記念して開催したフェアです。
私は人文書担当で、個人的にも思想書が好きでよく読んでいたのですが、ここ数年これといった起爆剤となるような本が見当たらなかったのです。例えば浅田彰さんと柄谷行人さんが中心になって作っていた『批評空間』という雑誌があったのですが、これは非常に魅力的でした。私も毎号買ってました。実際難しくてほとんど読めなかったのですが、思想好きの人間を惹きつける力がありました。あるいはドゥルーズやデリダといったフランス現代思想のスーパースターの存在も人を惹きつけていました。やはり全然読めませんでしたが、何度も何度も挑戦してやろうという欲望が沸々と涌いてきたものです。そういった存在がここ十年程不在でした。
そのような状況下で『思想地図』が創刊されたので物凄くうれしかった。しかも東浩紀さん、北田暁大さんといった若手の思想家がヘッドになって、単著が1,2冊出た、いやまだ出てないといった若手が大勢、論文を寄稿していたのがさらにうれしかったんです。
「若い書き手、同世代の書き手を大切にしなさい」(月曜社・小林浩)
書店員や出版社の人たちで定期的に集まって勉強会を開いているのですが、これはその時に小林浩さん(月曜社)に言われた言葉で、私自身も強く思っていました。しかし、なかなか軸となる本が見当たらず、若手を紹介したくてもできなかったのです。そこに『思想地図』が出たので、これはチャンスだと思い、『思想地図とその周辺 70年以降生まれの思想家・アーティスト特集』というテーマでフェアを打ちました。(※ 70年に特別な意味はありません。)店でのフェア自体はあまり反響はなかったのですが、その後私のブログを見てくれたり、出版者の方の働きかけ、あるいは宇野常寛さんの『ゼロ年代の想像力』(早川書房)が刊行されたこともあり、他店舗でも同様のテーマで若手を紹介するフェアが組まれるという反響がありました。
以上、私の活動はこの2つのフェアがきっかけとなり、その後これから説明するように様々な方向へ展開していきます。
チャンネル1:作家特集
1人の作家にしぼって、著書や選書を通じて、その作家を大々的に紹介しようという企画です。毎回、完璧をめざすのではなく、何か1つ新しいことをやろうと心掛けてやっています。
※それぞれのフェアの詳細はリンクしたページにレポートを書いているので、そちらを参照してください。
《古谷利裕フェア》(2008.7〜8)
《フェアの構成》
《保坂和志フェア(2008.9〜11)
《フェアの構成》
《福永信フェア》(2009.6〜7)
《フェアの構成》
・新刊
・作家選書
・トーク(福永×佐々木敦)
・美術作品展示(冨井大裕)
・ブログ日記(担当書店員がレポート、本の感想等)
・作家常駐
《柴崎友香フェア》(2009.9〜10)
《フェアの構成》
・新刊
・作家選書
・トーク(柴崎×佐々木敦)
・写真展示(山方伸)
・カフェでも展示(坂本政十賜)
・ブログ日記(担当書店員がレポート、本の感想等)
・柴崎友香論執筆(担当書店員が論考を書いて発表→アラザル誌掲載→文学フリマ・書店等で販売)
チャンネル2:トークイベント&詳細レポート
ジュンク堂書店新宿店でのトークイベントについては以前、西山雄二先生にも「人文学にとってEvent(出来事)とは何か」というテーマで取材して頂きました。詳細はそちらを読んでください。
私が心掛けているのは、レポートを書いてブログで発表するということです。全てとはいきませんが、なるべく記録を残すようにしています。大学のレクチャーと違ってたった一度きりのトークでうまくいくかどうかはやってみなければ分からないのですが、だからこそとても貴重な話が展開されることがしばしばあるのです。そんな記録をほんのわずかですがブログで紹介しています。
鵜飼哲×西山雄二トークレポート(2008.4)
中野剛志×萱野稔人トークレポート(2008.6)
平井玄×崎山政毅トークレポート(2008.11)
西山雄二×熊野純彦トークレポート(2009.4)
岩崎稔×本橋哲也トークレポート(2009.5)
チャンネル3:上映会
行動する哲学者、西山雄二先生との連携。トークイベントのみならず映画の上映会も実現しました。
『哲学への権利』上映会&トークセッション(2009.12.12)
チャンネル4:連続トークイベント
批評家の佐々木敦さんが発案された企画で「連続トーク」も行っています。当店でのイベントは新刊の販促イベントがほとんどで基本的に単発です。しかしうまくやれば大学のレクチャーのように連続モノ(全13回とか)、まとまったボリュームの内容をお客様に提供することができます。
この企画は 《佐々木敦小説家連続トーク》と題して、佐々木さんが毎回異なる小説家とトークを行います。対談相手を小説家に限っているので主旨が明確であり、お客様の立場からすれば、連続して聴いてもよいし、単発で聴いてもよい。そういうフレキシブルなつくりになっています。また最終的には書籍化も視野に入れており、当店でのイベントに留まらない二次的な効果も期待できる一石二鳥の企画です。
・第1回 前田司郎(09.1)
・第2回 長嶋有(09.2)
・第3回 鹿島田真希(09.5)
・第4回 福永信(09.6)
・第5回 磯崎憲一郎(09.7)
・第6回 柴崎友香(09.9)
・第7回 戌井昭人(09.11)
・第8回 東浩紀(10.1)
・第9回 円城塔(10.2)
チャンネル5:演劇特集
もともと個人的に小劇場の演劇が好きで論考や感想文をブログで発表していたんです。
そして劇団の方がこのレポートを読んでくれて、これをきっかけに劇団の制作部の方などと連携して企画を展開するようになったんです。
一番初めは五反田団の前田司郎さんです。これは私ではなく、同僚の芸術書担当者が前田さんのファンで、公演を観に行って前田さんを口説いてフェアを仕掛けたんです。
《前田司郎フェア》(2009.1〜2)
《フェアの構成》
そして次が演劇フェアの転機となった企画です。春に杉原邦生さん、柴幸男さんといった20歳台の若手の劇作家・演出家が集まって《キレなかった14才♥りたーんず》というかなり大きな公演を立ち上げたんですね。そして、その公演のミニコミをつくっていた藤原ちからさんから依頼があって、公演期間中に店で棚を設けてPRしようということになったんです。突然の企画だったのであまり大きな棚は展開できませんでしたが、各劇作家に好きな本を選んでもらって並べたり、フリーペーパーを配ったりしました。また、私自身も全ての公演を観劇して感想をアップしました。
《りたーんずフェア》(2009.4〜5)
《フェアの構成》
・公演
・選書フェア
・公演チラシ
・フリーペーパー配布
・公演の感想(ブログ)
・篠田千明『アントン、猫、クリ』
・柴幸男『少年B』
・白神ももこ『すご、くない。』
・杉原邦生演出『14歳の国』
それで次は、前もってフェアを企画して青年団制作部の野村政之さんとイキウメ制作部の中島隆裕さんに協力して頂きました。フェアの狙いは秋〜冬にかけて公演される作品をリアルタイムで書店で紹介することでした。
《 秋の演劇フェア》(2009.10〜)
《フェアの構成》
・公演
・作家選書フェア
・公演チラシ
・フリーペーパー配布
・公演の感想
《秋の演劇十番勝負!!!!!》
活動としてようやく形になってきたと思います。実際に書店でのフェアをきっかけに劇場へ行った人がどれだけいたかは怪しいですが、今後も継続してフェアを仕掛けてお客さんに認知してもらえば、効果がでてくるんじゃないかと思います。
※ フェアに協力してくれた柴幸男さんがなんと岸田戯曲賞を受賞されました!!!!!
チャンネル6:カフェコーナーの展示
当店にカフェがあるのですがちょっと殺風景なんですね。それで写真家や画家の方に作品を展示してもらうと店にとっても作家にとってもプラスになるんじゃないかと思い、実験的に展示をやっています。それで何が一番よかったかというと喫茶担当のスタッフが喜んでくれたことなんです。喫茶コーナーでただ働いているだけだと店に愛着を持てないんですね。そこにこうやって作家の作品が展示されるようになると愛着が湧いてきて、働いていて気持ちがいいみたいなんです。
坂本政十賜写真展(2009.9〜10)
鈴木奈緒写真展(2009.11〜2010.1)
チャンネル7:ミニコミ2.0
最後にちょっと面白い形態のフェアが実現したので紹介したいと思います。
《ミニコミ2.0》(2009.12〜)
ミニコミ誌『界遊』の武田俊さん、新見直さんが企画を立案されたのですが、プロジェクトのデザインが興味深い。
《ミニコミ2.0》企画のトータルデザイン
1.『界遊』→《スタジオヴォイスオンライン》へ企画を提案する。
2.ウェブ上で他のミニコミ誌編集者との座談会を発信(2009.11末)
3.リアル書店でフェアを展開(ジュンク堂書店新宿店)(2009.12.1〜31)
4.文学フリマ(2009.12.6)即売会
6.トークセッション「速水健朗×宇野常寛」を開催する。(2009.12.21)
7.次号《界遊》誌にレポートを掲載予定
すごくよくデザインされた企画だと思います。まずミニコミというのはけっこう面白い。商業誌の場合は広告頼みで絶えず部数を意識してマスを取り込む必要がありますが、ミニコミ誌はうまくやれば内容重視で作成することが可能です。例えば宇野常寛さん編集の『PLANETS』はそれをすでに実現しています。『界遊』もそうなりつつありますが、ミニコミ誌をベースにして、既存の雑誌やウェブサイト、リアル書店と連携して企画を展開していく。それぞれの長所をうまく使ってまた短所を相互に補うことで企画の効果を高めていく。私自身も『批評誌アラザル』というミニコミ誌に参加しているので、このようなトータルコーディネートを実現する『界遊』の行動力には大きな刺激を受けました。
3.結論(書店の可能性・野望)
以上長々と語りましたが、最後に「いま、書店でなにができるか」についてまとめます。
《知の現場》はいつでもどこにでもある
「本を読まなくなった。人文書を読まなくなった。」と言いますが、それは人次第でどうにでもなります。今日のこのゼミも東大批評の有志が企画して実現させた訳です。《知の現場》はいつでもどこにでもあり、またいつもどこにもありません。繰り返しますが、要は人次第です。書店だって誰かが動けば《知の現場》は出現しますし、誰も動かなければ消えてしまいます。
これはもうどうしようもない。あと5年で街中から書店が本当に消えてしまうかもしれません。今後、リアル書店をビジネスとして成立させるのはますます困難になるでしょう。すでに駅前の小さな書店はどんどん消えていって大型書店がなんとか残っているという状況です。この状況で、ネット書店、電子書籍にお客さんをさらに持っていかれたら、、、
書籍販売はただでさえ利益率が低い儲からない商売ですから、売上がさらに落ちると都心の一等地の家賃はもう払えません。「本を実際に手に取って、なかを確かめてから買いたい」というお客様は必ずいるでしょうが、絶対数を確保できなければビジネスとしては成立せず、リアル書店は消えます。
作家(学者)⇔出版社(編集者)⇔ 書店員⇔ 読者の連携を深める
作家(学者)が自身の執筆、研究活動のみに閉じこもってしまい、編集者が作家の方ばかり向いて仕事をして、他方書店員は本の内容など無視して売上データとにらめっこして、読者は「王様のブランチ」だけみて本を買うか、あるいは本を読まない。これは極端な話ですが、それぞれが双方に目を向けて、双方向に働き掛けていく必要があります。
ハブ機能、中継点としての特長を磨く
これが今日の私の発表の結論です。「ハブ型書店」。演劇フェアが顕著な例ですが、本というのは様々な人々を繋ぐことができます。演劇・スポーツ・料理・学問・ビジネス,etc. 様々なジャンルで活躍する人々、様々な面白いことを書店で紹介する。そして、お客様に書店に足を運んでもらうことで、同時に例えば劇場も活気づく、球場も活気づく、ビジネスも活気づくといった相乗効果をもたらすことが可能です。だからただ単に本というモノを売るのではなく、「書店は様々な人・コトを繋ぐハブ」であると自覚して、売場づくり販売活動を展開していきたいと思います。
あと2点ほど
(覆面作家が活躍する場としての書店)
私自身も一応その一人ですが、本を出すだけではなかなか食べていけません。小説家でさえ専業で食べていける人はほんの一握りですから、批評家なんてほぼ100%専業では食べていけません。だからその受皿として書店が機能すればいいなと思います。そういう人は当然本に詳しいし、本が好きですから書店にとっても好都合です。もちろん本を書くのと売るのは別問題なので、そのあたりの切換えは必要ですけれども。
(書店発の新人作家の誕生)[出版社主体の新人育成システムのオルタナティブ]
これはかなり大きな話ですが心掛けています。今は出版社自体が体力がないので新人を発掘して育成する機能が弱まっているんですね。各出版社が売れる作家を奪い合っているだけで、新人の育成がなかなかうまくいってません。そこで、実力のある書き手を紹介するファーストステップとして書店がその役割を果たせないか。「ミニコミ」誌と同様に、「面白いと思った人の本を書店で販売してみる→口コミでうわさが広がる→出版社の編集者が動き出す→本を出す→本がある程度売れる→書き手が次のチャンスをゲットする」。なかなか、こううまくはいかないでしょうが可能性はあると思います。
いま、黒川直樹さんという小説家の本を店頭で販売しています。
自費出版ですが500頁を超える長編小説で、彼はすでにオリジナルの文体というか独特の文体を持っている作家です。本も自分でデザインしてしまうので、出版社の新人賞のフォーマットに納まらないんですね。「だったら本屋で売っちゃえ!」と思い売ってます(笑)。すでに30冊ほど売れてます。書店員としてはちょっと行き過ぎてますが、本に関わる者として、こういう実力のある人をデビューさせるうまい方法はないかと考えている次第です。
以上です。
ご静聴ありがとうございました。
《参考ブログ》
《オススメ・参考文献》
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『界遊』
『りたーんず』