速水健朗×宇野常寛トークセッション



 《STUDIOVOICE ONLINE界遊》プレゼンツ




        ミニコミ2.0


      「誰でもメディア」時代の雑誌    


■ 出演


 速水健朗フリーランス編集者・ライター)


 宇野常寛(批評家)


 武田俊 〔司会〕(KAI-YOU代表)



■ 日時: 2009年12月21日(月)18:40〜20:30


■ 会場 : ジュンク堂書店新宿店8階喫茶コーナー





  《感想文:宇野は手ごわい》




 


 



「宇野は手ごわい」


この一言に尽きます。


会場でツイッターをやっている人が数人いて、(なんと津田大介さんもいた!)リアルタイムで「宇野、佐々木敦ディスる」とか報道されていたのでしょうか?


確かにそういう話も出たのですが、宇野さんの竹を割ったような物言いは、全然不快ではなく、速水さんがうまくフォローしていたので文脈を読み違えることもありませんでした。


宇野さんはサブカルチャー志向が強く、佐々木敦さんはハイカルチャー志向が強いという違いは確かに感じられますが、その違い以上に際立っているのは、宇野さんのサブカルチャーに対する絶対的な自信です。


例え昨今のサブカルチャーを取り巻く環境が決して良いとは言えない状態であっても、メディアの嗅覚が衰えていても、オレが変えてやる、よのなかを変えてやるぐらいの強いモチベーションを今日のトークから感じましたし、実際すでにやってもいます。宇野さんの立ち位置を確認しておきましょう。『思想地図4』から。


国内において近年とみにハイカルチャーの文化空間における存在感や海外からの関心が、圧倒的に後者に寄っているのはなぜか。国内においては相対的に地域、階級、民族といった社会内の対立関係が弱く、それが表現を構成する外部性として機能しにくい。その結果、国内社会においては相対的に市場とその流動性のダイナミズムこそが極度に肥大したかたちで外部性として機能している。現代の国内社会におけるサブカルチャーの優位は、この社会が市場に象徴される過剰な流動性以外に有効な外部性をもたないからであり、またその状況が「すべてがコミュニケーションで決定される」特異な社会(それはグローバリゼーションのもたらすフラット化が徹底されてた社会、でもある)を生んでいるからである。そこで商品として生み出されるサブカルチャーは否応なく市場という外部性、および〈すべてにがコミュニケーションで決定される社会=市場が肥大した社会〉との対峙を要求される。そのため、純文学や現代美術といった市場と切断されたハイカルチャーは衰退し、市場との切断が不可能なサブカルチャーが隆盛する。一般に前者の担い手は、後者を特定の市場(消費者コミュニティ)にマーケティング的に対応したウェルメイドであると批判(区別)する。だが、実際に現代の文化産業で生じているのはむしろハイカルチャーの担い手と受けてこそが、市場と切断された閉鎖的なコミュニティを醸成しているという事態である。そこで評価される作品はコミュニティに対する「傾向と対策」に準じたものになりがちであり、過剰な流動性に晒されるサブカルチャーの市場にこそユニークな想像力が育まれ、内外を問わず巨大な存在感を生み出している。

さらにサブカルチャーに重きを置きながらどのような方向を目指しているのかも表明しています。



アニメにおいては、『AIR』(2005年)、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)などセカイ系の流れを汲む萌え系のノベルゲーム/ライトノベルの映像化で支持されていた京都アニメーションが、『らき☆すた』(2007年)、『けいおん!』(2009年)など前述の「萌え四コマ漫画」=「空気系」の映像化に移行しその支持を維持していった。特に『涼宮ハルヒの憂鬱』の原作小説はセカイ系と空気系の双方の特徴を併せもつ作品であり、アニメ化においては空気系的な要素が前面に押し出されることで支持を獲得し、京都アニメーションの「空気系」化を推進している。


これら「空気系」の作品はゼロ年代前半における実写映画/テレビドラマにおけるアルタミラピクチャーズ系に対応するものである。90年代末の純愛/セカイ系の後継者として、筆者が考えるゼロ年代のウェルメイドの代表例のひとつがこのアルタミラピクチャーズ/空気系である。「空気系」のキャラクター構成が極めてシンプルな市場の要請から極めてシンプルな「排除の論理」を採用していることが象徴的だが、これらの想像力は自己目的化するコミュニケーションの連鎖が覆う現代社会(リトル・ピープルの時代)において、それぞれの島宇宙(消費者コミュニティ)に合った外装を整えた上で極めて直接的に欲望を満たすサプリメント(理想の〈自己目的化した〉コミュニケーション)が供給されていくという意味においてティピカルなウェルメイドとして位置づけられる。


このアルタミラピクチャーズ/空気系の市場主義的ウェルメイド(大きな島宇宙に対するウェルメイド)に批判力をもつのは、当然純愛/セカイ系への撤退(別の大きな島宇宙に対するウェルメイド)でもなければ、〈反市場主義的な想像力=カウンターカルチャーや物語批判という既に無効化された回路をローカルな共同性の中で限定的に機能される態度(小さな島宇宙に対するウェルメイド)〉でもない。それは純愛/セカイ系からアルタミラピクチャーズ/空気系へという直接的な社会反映を受け入れつつも、その〈市場性=外部性(たとえば過剰なまでの流動性)〉を用いて作品を力づける〈批判的市場主義=ハイブリッド化〉以外にあり得ない。

なるほど。『思想地図4』はサブカルチャー色を前面に押し出し、「想像力」をテーマに掲げ、さらに『思想地図3』における藤村龍至論文(「批判的工学主義」の可能性)を受ける形で「ハイブリッド性」をその戦略として打ち出してきたと見受けられます。


確かにこれがどこまで成功しているのか? サブカルチャーに馴染みのない人たちをも動かすことができるのか? という疑問はあります。


例えば黒瀬陽平論文は、アニメに主軸を置きつつもポスト椹木野衣を目論み、アニメと美術を貫通し同次元での批評を成立させようとしたその意気込みは高く評価します。ただ内容は評価できません。「インターフェイス」「情念定型」といった美術プロパーの用語が空回りしています。この内容を論じるにはオーバースペックです。


例えば、「Inter Communication no.65」に掲載された松井勝正論文「バロックインターフェイス」は刺激的です。ここでのインターフェイスという切り口は、これまでのバロック絵画に対する評価を180度転倒させる程の破壊力を持ち得ています。だからこの論文を読めば、「レンブラントすげぇー!」って感じでレンブラント作品に興味が湧きます。


他方、黒瀬論文はどうか。アニメの美少女がインターフェイスだと言われても「それで?」という感じで、だったら「サザエさんだってインターフェイスじゃん」という程度で「『AIR』すげー」とまでは思いません。



このように今回の黒瀬論文は評価しませんが、自らも画家であり美術に精通している黒瀬陽平なる人物がアニメを主軸にして活動しようとしていることは間違いない。もう2,3本も書けばブレークスルーするでしょう。黒瀬は宇野と同等の脅威です。



それで改めて問いたいのは、今日のトークで、サブカルチャー志向の強い宇野さんが、ハイカルチャー志向の仮想敵として佐々木敦さんの名前を出したことです。これは速水さんも終始違和感を示していたように、佐々木敦という人はハイカルチャー志向系のなかではかなり特異な存在です。佐々木さんのようにインディペンデントな活動を展開できる人がハイカルチャー志向の人たちのなかにごろごろいれば、宇野さんや黒瀬さんが出てきても痛くもかゆくもありません。しかし現実は、ほとんど思い当たる人がいません。これこそが問題であり、この点についてはハイカルチャー志向系は圧倒的に分が悪いです。


宇野:「界遊はいま何部ぐらい?」


武田:「1,500部をなんとかはけそうな感じです」


宇野:「うん。その段階か。だったら《文フリ》にはもう出るな。意味ないから」


武田:「ええっ!」


ここはかなり意見が分かれたところなのですが、宇野さんの考えはこうです。「商業誌という体裁をとれば、マスを捉えないと持続できないので好きなことは書けない。それじゃ好きなテーマで好きなことを書けるミニコミで何部売れば赤字を出さずに続けられるか? それは2,000部です。さらに雑誌作るのは大変だし、それでも何故やるかと言えば、シーンに介入するため。もっと大きなことを言えば、よのなかを変えるためです。そのためには10,000部、20,000部(『思想地図』は15,000部ぐらい)といったオーダーを目指さねばならない訳で、文フリで100部売れた、200部売れたと喜んでいても仕方ない。」


非常に極端な考えとも言えますが、宇野さんはこのあたりの感覚が物凄くシビアなのです。私自身もこのあたりを突っ込まれると返答できません。フェアとかトークとか色々と企画を考えてやってますけど、売り上げ目標は未だ設定できていません。


ゼロ年代問題の克服の仕方は一様ではありませんし、足並みを揃える必要もありませんが、今のところ東浩紀宇野常寛ラインがやはり一歩リードしているように感じます。


ともかく動かなければその時点で負けです。「勝ち負けを競うものではない」といった美談はいらないので、みなさん次の10年もガンガンやりましょう !!!





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