岩崎稔×本橋哲也トークセッション



《第3版》(5月13日)



※ 《トークセッションレポート》をアップしました。(5月13日) 下のほうです。



 岩崎稔・本橋哲也編『21世紀を生き抜くためのブックガイド』刊行記念トークショー





タイトル:この10年の思想界をふり返って


 



■登壇者


岩崎稔(哲学・政治思想)


本橋哲也(イギリス文学・文化研究)





■ 概要

新自由主義改革」の風が吹き荒れたこの一〇余年の日本の社会で、いったい何が起こり、何が問題となってきたのでしょうか。それを知るための手がかりは、この間に刊行された人文学的、社会学的な書籍、雑誌のなかにあります。岩崎稔・本橋哲也両氏は、一九九八年から二〇〇八年まで「週刊読書人」紙上で、その年の出版物を通して日本の社会と思想の動向を探る「年末回顧」座談会を行ってきました。その記録がこのほど『21世紀を生き抜くためのブックガイド』として一冊にまとまりました。先行き不透明なこの時代を生き抜くために、わたしたちは何をどう読めばいいのか。岩崎・本橋両氏が語ります。



■ 会場 : ジュンク堂書店新宿店


■ 日時 : 2009年5月8日(金)18:30〜20:30



■ プロフィール

 岩崎稔



1956年生まれ。東京外国語大学国語学部教授。
共編著に「戦後日本スタディーズ」(全3巻、紀伊國屋書店)、「戦後思想の名著50」(平凡社)、「継続する植民地主義」(青弓社)、「激震!国立大学」(未來社)。訳書にマリタ・スターケン「アメリカという記憶」(共訳、未來社)、ドゥブラヴカ・ウグレシィチ「バルカン・ブルース」(未來社)、アルバート・O・ハーシュマン「反動のレトリック」(法政大学出版局)、マンフレート・フランク「ハーバーマスとリオタール」(三元社)など。

 本橋哲也



1955年生まれ。東京経済大学コミュニケーション学部教授。
著書に「映画で入門カルチュラル・スタディーズ」(大修館書店)、「ポストコロニアリズム」(岩波新書)、「本当はこわいシェイクスピア」(講談社)、「カルチュラル・スタディーズへの招待」(大修館書店)。訳書にジュディス・バトラー「生のあやうさ」(以文社)、デヴィッド・ハーヴェイネオリベラリズムとは何か」(青土社)、アルンダティ・ロイ「帝国を壊すために」(岩波新書)、レイ・チョウ「ディアスポラの知識人」(青土社)など。




21世紀を生き抜くためのブックガイド

21世紀を生き抜くためのブックガイド



■ 協力

 週間読書人



《ブックフェア開催》


 この10年の思想界をふり返って






トークセッション・レポート》(5月13日)アップ




《タイトル》



《歴史》と《場所》の感覚が欠如し、《教育》のセンスがないネオリベネオコンに対峙して、やれることはなんでもやっていこうではないか。

 



トークをふり返って》



岩崎稔、本橋哲也というビッグネームにビビったのでしょうか。若い人の参加が少なかったことだけが悔やまれます。そういう私もビビってました。お二方の実績は書店に流通している書籍だけでも十分に把握できます。はい、私ビビってました。 が、トーク終了後、片づけの作業を終えて居酒屋に顔を出したら、「よっ!お疲れさん!」と本橋先生から気さくに声を掛けられたのにはもっとビビりました。勝手にイメージを作ってしまって損しました。嗚呼、本橋先生にスピヴァクのこと、もっと聞いとけばよかった。もったいない。この失敗だけが悔やまれます。


さて。岩崎稔、本橋哲也両先生とも大学での講義を終えたあと、わざわざ駆付けてくださり、そして長時間、熱く語ってくださいました。それを聴いていて「人文学はまだ終わってない」と確信しました。


冒頭で週間読書人編集の武秀樹さんから「出版不況と言われてますが、『21世紀を生き抜くためのブックガイド』で取り上げた書籍はざっと500点に上ります。この10年間にこれだけの素晴らしい本、いい仕事をしたと評価できる本が出版されているのです。」との発言がありました。そうなのです。書籍の力はまだまだ衰えていないにも拘わらず、ずっと不況なのです。問題は他の場所にあります。それを突き止めねばなりません。しかし、この問題は根が深いですから、とにかくできることからやっていくしかないでしょう。


私もできることからやります。まずは今回、若い人の参加が少なかったので、ここにできる限り詳細なレポートをアップしたいと思います。本当は『21世紀を生き抜くためのブックガイド』を手に取って読んでもらうのが一番良いのですが、そこまで踏み込めないという方もいるでしょう。ですから、このレポートをうまく活用してください。


ただし、ここで紹介する10冊が全てではありません。また以下のレポートは私のノートから立ち上げたものなので岩崎、本橋両先生の言葉通りではありませんし、私の力量が追いついてない点も多々あります。それについては読者の皆様自身の力で補ってください。それでは早速始めたいと思います。



《本編》



岩崎 この10年をふり返ってみますと、まず年末回顧という鼎談を始めたころは、こうやって本になるとは思っていませんでしたし、そんな余裕もありませんでした。ともかく我々が直面している問題と出版の状況を整備していこうと思っていたのです。しかし、毎年積み重ねていくうちに見えてきたことがあります。新自由主義がその一つです。10年前は新自由主義ということは問題にされていませんでした。当時は「戦後は終わった、もっと自由化しろ」という風潮が強く、我々はそれに対して苛立ちながらこの企画を始めました。しかしこうやって10年間本をみてくると風向きが明らかに変わったのがわかります。今日のように、多くの人が貧困や格差社会に対する問題意識を持つようになるとは思っていませんでした。


本橋 我々がやってきたのは「定点観測」して見るということです。年末にその1年間に日本語になった本について語るということを10年間(正確には11年間)続け、それが『21世紀を生き抜くためのブックガイド』という本になりました。こうやってガイドブックとして500冊ほどの本を紹介することができましたし、またこの本が出版されたことでブックフェア等も開かれるようになったので、意味があったと思います。そして、この10年で何が起こってきたか、キーワードも見えてきました。



新自由主義


・ネオナショナリズム(21cのナショナリズム


です。あるいは、次のようなキーワードもあげられます。


・9.11


・記憶と歴史


・戦後60年

そして、今日は岩崎さんと話した結果、『21世紀を生き抜くためのブックガイド』で取り上げた本のなかから10冊を選び、それらの本を紹介しながら10年をふり返りたいと思います。






1.野田正彰『戦争と罪責』岩波書店 (1998年)



戦争と罪責

戦争と罪責



岩崎 90年代半ばは、バブル崩壊後の空虚感を埋めようとする風潮があり、日本の歴史認識において大きな論争がありました。そして野田さんの『戦争と罪責』は、日本の戦争責任の問題について議論のレベルを上げる役割を果たしました。 この本を読んで改めて思ったのは、私は東京外国語大学の教員ですが、戦争に加担した人に外大出身者が多いということです。それもそのはずで外大はそもそも植民地支配のためにできた大学なのです。こういった戦争に加担した人たちが戦争をどういうふうに語るかが記されています。ここでは戦争をどう「あがなう」か、みつめるかという問い、戦争責任とは何かを考えさせられます。戦争加担者が戦争を自ら語ると、どんどん底が抜けてゆくのです。「あがなう」ということは非常に人間的なプロセスだと思います。



本橋 責任とはresponsibilityであり、つまり「応答・可能性」と考えることもできます。責任とは重いというよりも応答すること。つまり「あがなう」ことだと野田さんの本は語っています。1980年代以降、従軍慰安婦の問題が取り沙汰され「証言にどう耳を傾けるか」を問われていますが、野田さんの本はこの問題に通じています。