東日本大震災復興へのアプローチ



まちづくり会社による土地活用




マルジュン渋谷店でやっていた(まだやってる?)「コミュニティフェア」から何冊か参考になりそうな本をゲットしてきた。とりあえず4冊。



   



■ 足立基浩『シャッター通り再生計画』ミネルヴァ書房


■ 河井孝仁・遊橋裕泰『地域メディアが地域を変える』日本経済評論社


■ 上阪徹『「カタリバ」という授業』英治出版


河邑厚徳+グループ現代『エンデの遺言NHK出版

サンデルの主要論文や『ゲマインシャフトゲゼルシャフト』(岩波文庫)といった理論書も読みたいと思ったが、実践重視でセレクトした。


すでに『シャッター通り再生計画』は読み終えた。分かりやすい良書であった。今回の被災地も土地の権利関係で調整が大変だと思うが、この本に出てくる高松市丸亀町商店街の事例などが参考になると思った。もちろんいろいろと条件が違うので、アレンジは必要だが。



まず、以前紹介した中野剛志編『成長なき時代の「国家」を構想する』から引用する。


松永和夫(現・経済産業事務次官 先日、高松の丸亀商店街の成功例を見てきたんですが、なぜ成功したかというと、何代も続いた商店主が、自分の店や土地の所有権を放棄したからなんです。所有権を放棄することによって、デザインを統一化し、より売れる商品を出展させて、商店街として復活した。商店街にしても、農業にしても、おそらく彼らの発展を妨げているのは、戦前からの歴史を引きずったものとしての私有財産制、土地への執着なんですよ。しかし、たとえば丸亀の成功事例を他の商店街に応用しようと国が誘導したとして、所有権の放棄についてコンセンサスが得られるのかどうか。さらにいえば、人の問題、雇用の問題もそうで、企業が人を雇う、教育をする、離職者を再就職させるということについても、国の関与がもっと増えていかないと、市場に任せるだけではなかなか最適なものは実現できないと思います。しかし、そういうことに対する国民全体の受容力がともなっているのかどうか。そういうところが非常に気になります。


谷口功一(法哲学 まず、いまの松永さんの、商店街のお話はまさにそのとおりで、私も関心をもっていろいろ見てきたんですが、やはり立ち退かないんですよね。下のシャッターを閉めたままで上に住んでいて、立ち退かない。土地に対する執着という何かちょっと特殊なものが、どうもわが国にはあるらしい。しかし、コミュニティに関して新しい秩序をつくろうとすると、土地を中心とする私有財産に対する強力な介入というものが、どうしても必要になってくるわけです。これはやはり強力な権力を使って、中央統制的にやるというのが前提にあると思います。国外を見てみると、自由で市民社会が発達しているように見えるヨーロッパとかアメリカでは、逆に土地に対する国家の介入というのはものすごく強力に行われている。たとえば建築物の規制がそうです。よく飛行機で日本に帰ってくると、家の屋根の色が全部違っていて汚い、ヨーロッパはフィレンツェなんかがきれいだとかみんないいますけれども、あれは国家権力によって強制されているからです。街の条例なんかで、建て直してはいけないとか、ものすごく細かい規制がある。街づくりをするときでも、ゾーニング規制なんかを強力にする。そういう権力的な介入を厭わないというところがあるんですよね。それで、今後何かが変わっていくとき、新しい秩序構想を打ち出すときというのは、自由とかではなく、むしろ権力の問題と真正面からきちんと考えていくということが非常に重要だと思います。日本の場合は左派的な思考が幅をきかせてきましたので、権力は抵抗すべきものである、敵である、国家も敵であるというような考え方が非常に強い。権力論とか国家論とか統治論とか、そういう言葉を出しただけで、右翼だということで、そういうことに関して真面目に考えるという雰囲気が失われてきてしまった。ですから国家とか権力とか統治といった、いままであまり向きあってこなかった問題系に対して、あらためて向きあうということでも、まさに一つのターニング・ポイントであるというふうに思います。


萱野稔人(哲学、社会理論) まったく同感です。国家の役割の再定義ということを松永さんもお話しされましたが、たとえばネオ・リベラリズムといわれるものが席巻していたように見えた、このかんのグローバル化のなかですら、実は国家の役割はものすごく大きかったわけです。アメリカなんてまさにそうです。たとえばアメリカ政府の通商代表部というのは、完全に産業界とタッグを組んで、アメリカの産業界にとって有利な市場の条件を世界中に整備しようとしてきましたよね。そのときのスローガンが自由化であり規制緩和だったわけです。逆に日本では、その自由化というスローガンをそのまま真に受けて、ほんとうに国家の規制をなくせということで、国家を市場から退場させるような方向に議論が進んでいきました。しかし、ネオ・リベラリズムの本家であるアメリカでは、グローバル化というのは全然違ったわけです。(中略)つまりアメリカは、空を軍事的に支配しつつ、お金が流れて情報が流れる空間をみずから特権的に活用できるような環境を世界に確立しようとしてきたということです。そのための方便が、おそらくはネオ・リベラリズムだった。アメリカは、ネオ・リベラリズムという新しい世界経済のスタンダードを掲げ、各国に規制緩和を迫ることで、みずからが自由に活用できるお金と情報の空間を世界に拡げながら、ヘゲモニーを確立してきた。このように考えるべきなんです。ところが、日本の研究者や実務家はそのスタンダードを真に受けてしまって、いかに国家を退場させるかということばかり議論してきたのです。


(pp,369-372.)

少し余分なところまで引用したが、注目すべきは、やはり高松市丸亀町商店街の再生計画。


 高松の丸亀商店街


今回の被災地においても同じような動きをせざるをえない。元いた土地にそのまま住むことはできないので、このあたりが難しいのだが、住民が一番信用できる人、市長や町長に一旦土地利用の全権を委任した上で、まちづくり会社などと復興計画を進めていくことになるだろう。


近年、コーポラティブハウスや住民参加の街づくりが持て囃されたが、これはものすごく手間が掛かるし、責任の主体が曖昧になってしまうので、聞こえは良いがうまくいかないことが多い。住民の意見を取り入れることは重要だが、言いたい放題にさせてよいという訳ではない。最後は誰かが決断せねばならない。その誰かはやはり地元の人。市長や町長が適任だと思う。


その際に参考になるのが丸亀町商店街の成功例。ただ、足立基浩『シャッター通り再生計画』をあたってみると松永氏や谷口氏がここで語っているのとは少し事情が違う。住民が土地に執着せずに立ち退けばいいという問題ではない。特に今回の被災地においては、どこか遠くへ強制的に移住させるとか、既存のコミュニティを遮断するようなことがなければ、住民の方々には、元いた土地に住めなくても、比較的柔軟に新たな街づくり計画を受け入れてもらえるのではないか。それよりも問題なのは、土地の権利問題にまつわる住民のリスクを解消することである。 



足立基浩『シャッター通り再生計画』(ミネルヴァ書房)から引用する。


丸亀町商店街再生の特徴は、その土地問題の克服と再開発の手法にあることは広く知られた事実である。


ところで「地権者合意を経て、権利交換、そして富の配分」というプロセスをたどる再開発事業は、多くの地域では地権者の土地所有意志が強いのとリスクが不確実であるため、失敗するケースが多い。再開発型再生策に最も重要なのは、地権者の同意とそこにいたるまでの合意形成であり、それを説得する組織の存在である。


地権者を説得するためには、相応の利益とリスク管理、そして何よりも「信用できる人が説明にくる」ことがポイントにある。この点で高松市の成功の秘訣は、「まちづくり会社」の存在とその地位を高めた「財政基盤」の存在にある。高松市まちづくり会社は、その母体である高松市丸亀町商店街振興組合が1970年代から築いてきた五か所からなる駐車場経営に成功したという予算面での背景をもつ。また、同振興組合は組合員数420人(店舗数157店舗)で、その全員が地権者という点も大きい(基本的には地権者でなければ加入できないのである)。賦課金は10%を取っているため、予算規模は4億5000万円と一般的な地方都市の振興組合とは比べ物にならないほどの資金量を誇っている。


つまり、地権者同士が豊富な資金をもち、既にネットワークを有している点が、この町の再開発事業を可能にさせている。また、地権者同意のインセンティブとして、バブル景気のころに借金した際の担保であった土地がその後の地価下落で担保割れしたために、一時的に赤字を抱える商店経営者が多くなり、高松丸亀町商店街振興組合専務理事の熊紀三夫氏によれば「何とか土地を有効活用しなければ」という機運が生まれたという。


こういった「地権者の危機意識」と「ネットワーク」、そして「(まちづくり会社の)財政基盤」とが融合して、これから述べる定期借地制度を利用した土地開発事業が成功した。



○定期借地制度と土地利用の高度化


先術のように、バブル崩壊後、四国一高いといわれた丸亀町商店街の地価は20分の1程度にまで下落した。その結果、下落する地価に対して土地の保有意欲は薄れ、戦略的な有効活用へ向けた機運が漂いはじめたのである。


ここで丸亀町商店街が採用した手法が、土地所有権を残したまま土地利用の高度化が可能な「定期借地権制度」である。再開発後の権利床については地権者がこれを取得し、保留床についてはまちづくり会社が取得する。総額66億円の事業費のうち、建物については行政の補助金を活用した事業とし、土地については借地契約としたので、コストパフォーマンスに優れた再生策となっている。この結果、投資の利回りは年率25%という高い水準で計算され、土地所有者は相当額の地代を取得することが可能となった。


借地の期限は62年なので、いずれは返還され、この間の地代と再開発利益も地権者が受け取ることができる。テナントについても収益連動型の家賃システムの採用により、売り上げが少ない場合には低い家賃での営業が可能となった。この点も、新しく店舗を構えるオーナーにとっては魅力的であった。



○定期借地制度の課題


しかし、一般的にはこのように地権者が定期借地制度に同意することは容易ではない。様々なリスクが介在するからである。その一つが、定期借地として貸し出している土地の相続の発生であり、その際にはまちづくり会社が土地を買い取らなければならない。そのための引当金を確保する必要もあろう。また、現在は経営が好調なものの、商業売り上げが低迷した場合には空き店舗が発生するリスクもある。空き店舗が発生した場合には、その分地権者の収入が減るために、これを期待して生活設計をしていた地権者にとっては、売却もできないために対応に苦慮することになるものと思われる。丸亀町商店街の場合は、まちづくり会社がA街区からその他の街区にいたるまで総合的にテナントミックスするなどのマネジメントを行っており、リスクに対しては緻密な経営予測・計算がなされていた。そのため、様々なリスクを考慮した上で十分な再生計画を行うならば問題はないであろう。


(pp,111-114.)

これはあくまでも商店街再生計画の話なので、被災地の「まち全体」の再生計画とは条件が大きく異なる。ただ《まちづくり会社》の設立や、「定期借地制度」をアレンジして活用する、あるいはリスク計算など、多くのヒントが丸亀町再生計画にはある。



あと今日の朝刊に「信託銀行」からも声明が出ていた。



日経新聞2011年4月6日朝刊)

信託協の野中新会長「復興に信託活用」



信託協会長に就任した野中隆史みずほ信託銀行社長は日本経済新聞のインタビューに応じ、東日本大震災の復興支援に関連し「土地仲介などに信託の機能を活用していきたい」と述べた。今後、復興にあたる国や地方公共団体に対して「不動産や土地に関する知見を提言していきたい」との考えも示した。


具体的には「区画で集約した土地を信託して開発していく」ことや「一時避難している被災者の生活場所確保のための土地情報の提供」などを検討課題として挙げた。


野中氏は5日、信託協会長に就任した。同日の記者会見で「加盟会社が社会のニーズに応じた商品やサービスを提供しやすいよう環境整備し、信託に対する認知を高めていきたい」と抱負を語った。

本当にその通りで「信託銀行」の認知度が低過ぎる。私もよく分からない。「銀行」と「信託銀行」の違い、「信託銀行は何ができるのか」を国民に対して、池上彰よろしく分かりやすく説明して頂きたい。


とにかく、このあたりの問題は、法律、銀行業務、土地開発の専門家でなければ分からない。迅速な対応を求む!



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