東日本大震災復興へのアプローチ(7)



グローバル企業はいかにして成長を計るべきか




ようやく期待していた発言が出てきた。


新興国、いずれ課題に直面


残念なのは、これがグローバル企業のトップによる発言ではなく、日銀の白川総裁の発言だったということ。経済のプロでなくとも、経営のプロでなくとも、素人でも分かることであるにも拘わらず。



この問題は以前紹介した中野剛志氏の『TPP亡国論』のなかでもっと明解に述べられている。




   コーヒーブレーク



話が少し逸れるが、池田信夫氏がブログで『TPP亡国論』をけちょんけちょんに言っていたが、私はそこまでひどいとは思わない。



池田氏が指摘するように、「公共事業を積極的に打つことでデフレを解消する」という中野氏の持論は、私も疑問に思った。これは中野氏の思考の癖が、悪い方向に作用したと私は考える。



中野氏の『国力論』を読んでも分かるように、中野氏は起こりうる問題に段階的に対処しようとする。中野氏は、グローバル化の時代といえども、ただ単に世界に流されるのではなく、まず自国をきっちりと造ること。それから世界に挑むというスタンスである。



この中野氏のスタンスを私は基本的に評価している。例えば震災の問題にしても「スマトラ島沖地震の時には積極的に動こうとしなかったのに、なぜ東日本大震災になると積極的に動くのか?」という批判をM.サンデルのようなコミュニタリアンからしばしば突きつけられる。 もちろんスマトラ島の被災者やあるいはアフリカの難民はどうでもいいとは言わない。ただ自らの責任において、自国で起こった惨事については自らの生活を犠牲にしてでも復興に積極的に関わる。他国で起こった惨事については、できる範囲で手を差し伸べる。それを全世界の人々が行えば全世界をカバーできる。あくまでも程度問題だが、基本的にはこのスタンスで良いのではないかと私は考える。



この点を断った上で、先ほどの問題について指摘する。「公共事業を積極的に打ってデフレを解消してから、民間による積極的な投資を求める」というのは、民間に対して及び腰すぎると私は思う。中野氏は官僚なので「国がなんとかする」という責任感が強過ぎるのではないか。国が国がとシャカリキになるのではなく、もっと民間企業に積極的に働き掛けるべきだ。そして公共事業にしても民間からの出資を同時に呼びかけねばならないし、民間へのシナジー効果をもっと意識せねばならない。



さて。確かにこのような問題は感じたが、その他については池田氏の意見とは異なり、私は中野氏を評価する。評価するとはいかにも偉そうだ。私は『TPP亡国論』を読んで、非常に勉強になった。2011年のベスト3には間違いなく入る一冊だ。


   






さて本題に移ろう。



日銀の白川総裁が「新興国、いずれ課題に直面」と述べ、問題視したことを中野氏はもっと早い段階で問題になるとして、「グローバル・インバランス」という観点から明解に説明している。


  グローバル・インバランス問題とは?




アジア通貨危機(1997〜98年)以後のグローバリゼーションについては、ふたつの特徴が明らかになります。



ひとつは、アジア通貨危機以後のグローバリゼーション、すなわち2000年代半ばまでの世界経済の好況は、アメリカの住宅バブルと、それを背景にしたアメリカの消費者の過剰な消費に全面的に依存していたのだということです。



そしてもうひとつは、この時期、目覚ましい成長を遂げた東アジア、特に中国は、アメリカやヨーロッパへの輸出に依存して成長していたのであり、自国の内需の拡大による成長では必ずしもないということです。そして、アメリカの輸入は、住宅バブルによる過剰消費の産物だったわけですし、ヨーロッパもバブルの影響を受けていたわけですから、アジアの成長センターなるものは、実は、アメリカの住宅バブルのたまものだったということなのです。



2002〜06年の日本の景気回復は、成長する東アジアへの輸出によるところが大きかったのは事実です。このときの成功体験から、「成長するアジア市場を獲得せよ」といったことが叫ばれ、政府や財界を先頭に、今も叫んでいる人がたくさんいます。しかし、



  



図4から明らかなように、日本は確かに東アジアへ巨額の輸出を行っていますが、東アジアはさらにアメリカやヨーロッパに巨額の輸出を行っています。これは、日本が東アジアへ資本財を輸出し、東アジアで加工組み立てが行われて最終製品となり、その最終製品の消費地アメリカやヨーロッパだということを示しているのです。日本は、東アジアというよりは、東アジアを経由して、バブルで浮かれるアメリカやヨーロッパに輸出をしていたということです。これが、日本から東アジアへの輸出の拡大の正体です。



ですから、アメリカの住宅バブルが崩壊し、最終消費地が不況になれば、東アジアも不況になり、日本の輸出も伸びなくなるのです。



2008年のリーマン・ショック後、世界経済が大不況になる中、中国がGDPの数字上は、いち早く景気回復を果たしてみせました。このため、日本では、再び「中国市場を獲得せよ」「中国の活力を取り込め」と言い出す論者が増え、新たに発足した民主党政権も、中国の需要を獲得することを主要な柱のひとつにして、成長戦略を策定していました。



しかし、リーマン・ショック後の中国の成長は、空前の公共投資と強引な金融緩和、そして人民元の安値での固定による輸出競争力の強化によるものであって、アメリカ経済とは無関係に、中国の消費が順調に伸びたものと考えるべきではありません。現に、中国は、本書執筆時点(2011年2月)において、公共投資の大幅拡大と金融緩和のために、急激なインフレと資産バブルに見舞われており、その対策に躍起になっているのです。



加えて、リーマン・ショックを契機に、アメリカを先頭に世界中で、金融緩和が行われました。しかし、資金需要が生まれてこないため、世界中に資金が過剰に供給され始めました。このため、過剰に供給された資金は、新興国経済に流れ込んでバブルを引き起こす恐れが生じたり、あるいは金、食料、原油などの商品市場に流れ込んで、これら商品の価格を急騰させる恐れを発生させたりしています。



世界経済を正常化し、安定化させるには、金融政策だけではダメなのです。実体経済を動かさなくてはなりません。すなわち、需要を拡大しなければならないのです。しかし、これまで世界経済を引っ張ってきたアメリカの旺盛な消費需要は、住宅バブルの崩壊によって消滅しました。もはやアメリカの消費を頼むことはできません。アメリカの消費需要にとって代わる牽引役を見つけ出さなければ、世界経済の正常化はあり得ません。アメリカだけが輸入し、一方的に経常収支赤字を計上する一方で、東アジア諸国は輸出一本やりで、経常収支黒字をため込むという、世界的な貿易不均衡は、もはや持続不可能だということです。



これが、グローバル・インバランスと言われる問題です。リーマン・ショック以後の世界経済の立て直しの議論は、「グローバル・インバランスをどうやって是正するのか」という一点に集約されていると言っても過言ではありません。



中野剛志『TPP亡国論』(集英社新書)pp.65-69.


   日本に期待する国連




では、アメリカの消費者に代わって、誰が世界経済を引っ張ることができるのでしょうか。国際連合貿易開発会議(UNCTAD)が、2010年版「貿易開発報告書」において、この問題を論じています。



2000年代は、アメリカの過剰な消費が世界経済の成長を牽引していた。しかし、このグローバル・インバランスの世界経済の構造こそが、金融危機の遠因である。このグローバル・インバランスの構造は、もはや持続不可能である。世界経済秩序の安定化のためには、グローバル・インバランスの是正(リバランス)が必要である。すなわち、アメリカは過剰消費を改める一方で、日本、ドイツ、中国といった経常黒字国は、内需を拡大し、輸入を増やすべきである。しかし、今のところ、日本、ドイツ、中国のいずれもが、依然として輸出主導で景気回復を図ろうとしている。このため、リバランスは進んでおらず、世界経済は依然として脆弱な構造のままである。



「貿易開発報告書」は、このように述べた上で、アメリカに代わる牽引役を検討しています。その中で、成長の期待が大きい中国については、アメリカの代役を期待することはできないと国連貿易開発会議は結論するのです。



その理由は、第一に、中国の消費規模がアメリカの8分の1程度に過ぎず、しかもそのうち輸入は8%を占めるに過ぎないからです。中国経済の台頭と言っても、その消費規模・輸入規模は、アメリカに比べるとはるかに小さいというのです。



そして第二に、アメリカと中国では、輸入している消費財の性質がまったく違うからです。「貿易開発報告書」は、主要各国が輸入している製品とアメリカが輸入している製品の類似度を、一定の推計方法に従って、比較しています。それによると、アメリカの輸入している製品と類似度が90%以上であるのはドイツであり、次いで日本の類似度が70〜80%となっています。韓国も日本と同じくらいの類似度となっています。これに比べて、中国が輸入している製品の類似度は、40〜50%程度しかありません。つまり、中国は、アメリカが輸入している製品とは、かなり性質の違うものを輸入しているということです。



このように、中国の消費需要は、量と質の両面から見て、アメリカの消費需要の代わりにはならないというのが、国連貿易開発会議の結論なのです。では、どの国の消費需要であれば、アメリカが失った消費需要に代わって、世界経済を牽引できるのでしょうか。



国連貿易開発会議は、それはドイツと日本だと指摘しています。ドイツと日本は、消費需要の規模が大きいだけではなく、輸入している製品の性質がアメリカと近いからです。特に日本は、ドイツより消費規模が大きいことから、ドイツ以上の役割を果たすことができると期待されています。国連貿易開発会議は、リーマン・ショック後の世界経済の秩序回復、すなわち「リバランス」のためには、ドイツ、そしてそれ以上に日本が内需主導で成長し、輸入を拡大すべきであると主張しているのです。



ところが、日本では、ほとんどこのような議論がなされていません。それどころか、日本は、依然として輸出主導の経済成長を目指しています。しかし、それは、国連貿易開発会議が懸念するように、リーマン・ショック以後の世界秩序の再建という、世界が取り組むべき問題に対して背を向け、問題を悪化させるものなのです。



私は、この国連貿易開発会議の見解は、基本的に正しいと思います。日本は輸出主導ではなく、内需主導の成長によって輸入を増やすべきです。ただし、輸入を増やすためのやり方は、TPPへの参加による関税の撤廃によるべきではありません。



中野剛志『TPP亡国論』(集英社新書)pp.69-72.




TPPに関心があるので日経新聞を毎日読んで、企業のトップの発言、日経新聞の論調をチェックしているが、確かに中野氏が指摘しているように、このような議論は確認できない。あのグローバリズムの申し子、竹中平蔵氏からも聞かれない。氏が毎年参加しているというダボス会議でも話されてしかるべきだろう。いったい何を話しているのだ?



また先日、オーストラリアのギラード首相が来日され、日経新聞にも寄稿されている。日経新聞2011年4月20日(朝刊)に全文が載っているので各自チェックして頂きたい。主な内容は以下のとおり。


  ギラード首相寄稿文の主旨




【経済関係】


・豪州から日本へ安定したエネルギー輸出を行う



【貿易・投資関係】


・日本から豪州への投資を歓迎する


・日本での外資系企業によるインフラ投資容認を歓迎する



【外交・防衛】


・両国は防衛面でもパートナーである


トヨタの車をもっとたくさん買いたい」「パナソニックのテレビがもっと欲しい」とは一言も書かれていない。「オーストラリアからたくさん買ってください」「オーストラリアにもっと投資してください」と書かれている。



新宿の書店で働いている、しかも社会科学書担当ではなく、人文科学書担当である私がわざわざ言うまでもなく、日本は世界から内需を拡大してください」いや内需を拡大しろ!」と言われているのだ。



にも拘わらず、トヨタパナソニックを始めとするグローバル企業のトップがなぜこのことが分からないのだろう? グローバル、グローバルと連呼しているにも拘わらず、視点が実にローカルだ。「この給料泥棒!」「せめて私に書籍代ぐらい払ったらどうだ!」



失敬。 しかしながら、やはりこれは日本を代表するグローバル企業が世界で売り上げをガンガン伸ばしたいと考えているのとはまったく裏腹だ。また厳しい競争上、韓国のグローバル企業をライバル視するのは理解できるが、韓国のグローバル企業は実質的に欧米系の資本に乗っ取られていることを考慮すべきだ。


水野 損益計算書を見たわけじゃありませんが、韓国のサムスン・グループの上げた利益のうちの半分ほどは欧米系の資本に吸い上げられているといわれています。



萱野 半分ですか・・・。それはやっぱり97年のIMF危機の影響ですか。



水野 そうでしょうね。IMFからの融資とひきかえに、韓国は構造改革と民営化を推進させられ、それによって外資がどんどん入ってきて株を買い占めてしまいましたから。 中国の電気自動車会社BYDにもアメリカ資本が入っていますから、あそこで電気自動車を生産して売れば売るほどその利益は他国の資本にいくことになるでしょう。



水野和夫・萱野稔人『超マクロ展望 世界経済の真実』(集英社新書)pp.100-101.


韓国が頑張れば頑張るほど欧米が儲かる。事実上、植民地化されている。その韓国と日本が世界から求められているものは違う。韓国のグローバル企業をライバル視し過ぎるのもどうかと思う。同じレールの上で競争する必要はないのではないか? もっと賢い戦略があるのではないか?



さて、それではいかにして内需を拡大するか? デフレ、格差社会少子高齢化、地方経済の衰退という問題を抱えている日本において、下手に貿易の自由化を敢行すればコントロール不能に陥り、再びバブルのようなことになるであろう。


萱野 日本のバブルについては一般にこう説明されます。まず、日米のあいだで貿易赤字問題があり、アメリカは日本にずっと市場開放を要求してきていた。オレンジとか牛肉だとか、もっとアメリカ製品を買えということでいろいろと個別交渉をしてきたけれども、どれもうまくいかない。そこでアメリカは80年代になると、日本の金融市場のあり方や為替に直接介入するようになった。日米円ドル委員会やプラザ合意はその過程で生まれたものです。そうしたなか、アメリカから、日本はもっと金融緩和をして内需拡大をしろという要求がでてくる。そしてその要求どおりにしたらバブルが起こった、という説明です。



水野和夫・萱野稔人『超マクロ展望 世界経済の真実』(集英社新書)pp.167.

この引用箇所の後で、もっと突っ込んだ指摘があるのだが、ひとまずここで留める。



内需拡大といってもバブルは困る。



さてどうするか?



(注意)よく言われるように日本人は、自分で全く考えないで人の意見を鵜呑みにする人が多いので事前に断っておく。ここから先については裏付けはない。私の勘で書く。



素人が気軽に言うことではないだろうが、やはり「大胆な需給ギャップの調整」が必要なのではないか? これが許されるのか否かは分からないが、この策しか思い浮かばない。


・そもそも企業は拡大するしかないのか?



・そもそも企業は拡大して利益を上げて、その利益をいったい何に使うのか?



・さらに拡大するために利益を使うのか?


(いったいいつまで???)



・株主に還元するために利益を使うのか?



・役員に還元するために利益を使うのか?


(株主や役員が大富豪になってもフェラーリを10台買うとか無謀な使い方しかないので、ほどほどで良いでしょう。)



・社員に還元するために利益を使うのか?


(これは重要。特に《ムリ》をさせている非正規労働者には! ただ国際競争力を維持するためにはある程度で留めないとダメでしょう。)





※ このあたりの考えは齊藤誠氏の『競争の作法』(ちくま新書)を参照した。しかし齊藤氏はあまりにも現場を軽視しすぎなので、私なりに考えを修正した。

こうなってくると企業の利益は、やはり日本の国力を上げるために使ったり、世界的に求められていることに使われるべきでしょう。



そして目下、日本の内需拡大については、グローバル企業であっても求めるし、日本という国も求めているし、世界も求めている。ただしバブルではなく、日本の国力を上げることで内需の拡大を計らねばならない。



さてどうする?



内需拡大はそもそも不可能。



確かに。



しかし、論理の飛躍は承知で言う。



そのための1つの手段が道州制を成功させることだ。東京の一極集中構造ではもうこれ以上成長が見込めない。国が一点ではなく、面的に成長せねばならない。そのために多極化して国土の全面的な成長を狙うべきだ。もちろんこの策は、逆に国力を落とすリスクもある。成長という概念自体を変えねばならないかもしれない。よっぽど知恵を絞らねば成功しないだろう。



そこでやはり、全国に先駆けて《東北州》をいかに成功させるか、自律させるかが重要になる。これは全世界が注目する挑戦すべき難問だ。



道州制」については復興のヴィジョンとして、すでにたくさんの声が上がっている。国も東北六県もその方向で動こうとしている。ただ民間企業の動きがちょっと消極的だ。今までの発想でそろばんをはじいているからだろう。



グローバル企業が、中国だ、インドだ、新興国だと躍起になるのも分かるが、それと同様に、いやそれ以上に、グローバルな視点で《東北州》の自律に向けて知恵も資金も出すべき時だ。












阪根Jr.タイガース


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